「生産の現場では、徹底した食の安心・安全に取り組んでいます。例えば農薬には、野菜ごとに使用できる農薬や使用方法などが定められており、細かい作業履歴をつけることが義務づけられています。こうした基準を守らなければ出荷できません。残留農薬に関しても、分析センターで厳しいチェックが行われています。
それだけではありません。農家はきれいな農産物を作るためにも一生懸命です。私は和歌山の果樹園農家の出身ですが、樹に実っているみかんは形が悪かったり皮に傷がついたりすることも多いのです。でもそんなみかんは、どんなに甘くても規格外になってしまう。きゅうりだって、曲がっただけで流通しづらくなります。味だけでなく、見た目にも気を配っているのです」
農林水産省の調査によると、食品関連事業者や家庭で廃棄されるフードロスは年間約612万トンといわれ、そのほかにも、生産現場では多くの規格外食品が捨てられていると考えられている。SDGsや環境配慮の観点から考えれば、私たち消費者も農産物に対する知識をつけ、規格外食品を少しでも減らすこともまた、食の未来を明るくし農家への一助となる。
「消費者の皆さんには、農産物の見た目だけでなく農畜産物そのものの価値を評価していただきたいと思っています。『少し形が悪くて傷ついていても味は変わらない』と規格外のものを求めてもらえるようになれば、流通経路も広がるでしょう。ひいては、農家の手間や使う農薬もより減らすことができると思っています。
食料はある日突然なくなるわけではありませんが、少しずつ状況が悪化して、気づいたときには手遅れになってしまう。だからこそ、持続可能な食と農の実現に向け、いまできることをしなければいけません」
望むのは子供や孫が安心して食べ物を口にできる未来。実現できるかどうかは、今日の私たちの行動にかかっている。
【プロフィール】
中家徹(なかや・とおる)/1949年12月、和歌山県生まれ。中央協同組合学園を卒業し、1972年紀南農協入組。同農協代表理事専務、代表理事組合長、和歌山県農協中央会副会長、同会長を経て、2014年に全国農協中央会副会長に就任。2017年より現職。
撮影/北原千恵美
※女性セブン2023年3月2・9日号