職場の名札をきかっけにSNSを探られることも(イメージ)
坂本さんが働いていたのは、関東を中心に展開する飲食店チェーンだが、カジュアルなファミレスや居酒屋などではなく、葬祭後や法事で利用されるタイプの店。そのため、スタッフには正装と、フルネーム名札の着用が必須とされていた。
「ファミレスやコンビニスタッフの方が、名札からSNSを特定された、みたいな記事を読んだことはあったんですが、まさか自分も?と恐ろしくなりました」(坂本さん)
ファミレスやコンビニでは、個人情報保護の観点から「すでに従業員の名札のフルネーム表記をやめている」(大手コンビニ本部関係者)というが、坂本さんの働く現場では、そうした配慮よりも、礼儀を尽くした接客や見た目といった「格」が重んじられたのだ。
「同僚にそのことを話したら、たまにお越しになる近所の男性がFacebookで友達申請してきたユーザーのプロフィル写真とよく似ているという話になり、それで相手の正体が判明したんです。私以外にも、同じように友達申請が来たり、中には受け入れてしまい、食事やデートに誘われた先輩女性社員もいて、外から店内の様子を覗いてくる、不意に声をかけてくる、などの”被害の声”も聞かれました」(坂本さん)
店の責任者が男性にその件を伝えたところ、来店はおろか店の近辺に出没することもなくなり、後日、従業員の名札も姓のみの表記に改められた。坂本さんたちは「今も名札をジロジロ見られているような気がして怖い」と、SNSのアカウントなど、第三者が個人的に自分にコンタクトをとれそうなネット上の情報を全て削除したという。
こうしたトラブルを避けるためにも、個人名や顔写真などは、できるだけネット上に出さないというユーザーは多い。自撮り写真は出しても首下だけ、手元だけという例も多く見かける。しかし、職務上、不特定多数の客の信頼を得るためには、どうしても名前や顔写真を出さなければならない、という人々も存在する。
「不動産店の営業職ですが、ネットで紹介している担当物件の一つ一つに、名前と顔写真が出ています。ネット検索すると、不動産系のサイトはもちろん、私の個人的なSNSや、部活動の大会の成績の新聞記事などもヒットします。名前を検索するだけで、勤務先も出身地も、出身学校もすべてわかってしまう状態なんです」
こう話すのは、都内の不動産会社勤務・和田弘平さん(仮名・30代)。声のトーンを下げ、続ける。
「実際、担当社員が若い女性であれば男性からの問い合わせが増え、その逆もあります。私も、中年の女性のお客様から何度も指名された挙句、SNSで友人申請が来ました。相手はお客様ですから、無下には断れませんでした」(和田さん)