SNSのおかげで励まされたりプラスになることもたくさん(イメージ)
こうして業務外の個人的なSNS上でも、顧客対応をせざるを得なくなった和田さんだが、女性客の行動はエスカレートしていった。内見のたびに和田さんを指名してきては「××高校出身なんだ」「自宅は××のマンションなんだね」と、和田さんのSNSで調べたのであろうプライベート情報を探ってきたが、それだけならまだよかった。和田さんのSNSに書き込みをしていた友人女性などにも、女性客が「和田さんとはどういう関係か」とメッセージを送りつけていたのだ。そして、彼女の言動は、エスカレートしていった。
「実は結婚しており、そのことはSNSで公表していませんでした。投稿を遡り調べたのか、妻のSNSにも、私と結婚しているのかと詰問口調のメッセージ、さらに私が不倫しているなどと嘘の告発が届きました。その後、詳細が表に出ていないはずの会社のスポーツ大会にまでその女性客が姿を見せ、じっと観察されたこともありました。さすがに怖くなって、担当を変えてもらいましたが、ネットに名前を出さないわけにはいかず、同じようなことが起きないか本当に恐怖しかありません」(和田さん)
被災者として取材を受けたらSNS経由で「二次被害」
何気なく出した「本名」が、SNSなどのネット上の情報と紐付いたことで「個人情報」が流出したのと変わらないような状況に追い込まれることもある。数年前、西日本地区で起きた豪雨災害の被害者・田原由紀さん(仮名・20代)は、テレビ取材をきっかけに個人情報がネット上に拡散され、思わぬ「二次被害」を受けたと訴える。
「自宅の近くまで土砂が押し寄せ、地元テレビ局のインタビューに名前と顔を出して答えたんです。知人からは”ニュース見たよ”とか”頑張って”とSNSにメッセージ届き、辛い状況だったので本当に心が安らぎました」(田原さん)
田原さん自身は、地元のテレビ局の取材に応えたつもりだったが、全国ニュース枠で大きく取りあげられた。すると間も無く、どこの誰ともわからない不特定多数の人物から、SNSにメッセージや書き込みが寄せられるようになった。ほとんどは、田原さんを応援する趣旨だったが、かわいいね、連絡先を交換したい、援助するからデートしてなど、あまりに常識を欠いた露骨な内容のメッセージもあったと振り返る。
「ネットのまとめサイトには、過去に私が出ていた新聞記事を見たのか、私の出身学校や親の名前、自宅の詳細な住所まで出ていました。うちに避難して来いとか、夜の店でバイトしたら人気出そうなど、被災でダメージを受けているところに、本当に心無い書き込みばかり。我慢できず、SNSの友達申請をお断りする旨を書き込んだところ、今度は被災者のくせに調子に乗っている、とまで。個人情報が漏れることの恐怖を、身をもって知りました」(田原さん)
SNSを利用しなければよいという考え方もあるかもしれない。だが、無責任な第三者のために、SNSを利用することで得られる便利さや楽しみを我慢しなければならなくなるのはあまりに理不尽過ぎる。前出の田原さんも不愉快な”二次被害”を受けはしたが、同じSNSで励まされることも多く、良い面も悪い面もあったと振り返る。残念ながら現時点では、安易に第三者によって煩わされないよう自衛につとめる他にないが、卑劣な加害者を規制する具体的な方法の検討、責任を追及するような議論の盛り上がりに期待したい。