京王電鉄株式会社の「除灰カート」
日常業務では荷物の運搬に使用するが、先頭にブラシを取り付ければ除灰カートになる(撮影/黒石あみ)
前回の宝永大噴火(1707年)で、富士山の火山灰は遠く東京、千葉、茨城まで降灰したと記録が残る。約300年の沈黙を破った時、現代においては当時とは違った被害をもたらす。2cmでも降り積もれば、車や鉄道といった交通網の麻痺を引き起こすのだ。
そうした事態を想定して対策を講じているのが京王電鉄だ。富士山頂から約100km離れた南大沢、北野、永福町の3駅付近に「除灰カート」を所有し、火山灰の除去を可能にする。同社工務部が説明する。
「カートの先頭にブラシを取り付けて装置を積み、灰の処理を行ないます。また線路上に一定区間で設けている絶縁部分に降灰すると、電車が走っている位置が特定できなくなるため、絶縁部分は灰の吸い込み処理を行ない、絶縁を保ちます」
その言葉には、公共交通機関としての使命感と矜持が宿っていた。
株式会社小野田産業の「噴火・津波から身を守る避難シェルター」
車椅子でも避難可能で、内部には水などの保存食収納庫や緊急脱出口もある(写真提供/小野田産業)
富士山をのぞむ静岡県静岡市にある小野田産業は、噴火や津波、洪水に備える防災シェルター「SAM」を販売している。同社の担当者が話す。
「アメリカの軍事施設の外壁にも使われるポリウエラというコーティング剤をシェルターの表面に吹き付け、強度や耐熱性などを高めています」
収容人数は8人で、お値段は150万円(税込)。それでも富士山噴火や南海トラフ地震の津波などに備えて導入する企業や個人が少なくないという。
取材・文/池田道大(富士山火山防災対策協議会)、清友勇輔(京王電鉄、小野田産業)
※週刊ポスト2023年3月24日号