マフィアだとイメージできる
この暴排条項、日本人なら反社と聞けばすぐに意味が理解できるが、外国人となるとそうはいかない。コロナ渦になる数年前、地方銀行のある窓口でインド人女性が口座を作ろうとした時のことだ。就業ビザを取得し、ある中小企業で働くために来日した彼女に対応したのは、新入社員らしき若い女性行員だった。日本語がよくわからない彼女に付き添ってきたのは、簡単な日本語なら話せるというインド人女性Mさん。Mさんはご主人の赴任で来日したばかりだった。
手振り身振りと簡単な日本語のやり取りで、なんとか口座の開設にこぎつけたが、女性行員がある1枚の紙を差し出すと、それまでの流れがストップしたという。「サインしてくれと言われたが、何の書類なのかわからなかった」というMさんは、「これは何ですか」と聞いた。すると女性行員は「反社会的勢力ではないですよね」と聞き返したという。「反社会的勢力が何かわからないから、それは何ですかと聞くと、困った顔をされて」、日本語が読めないMさんには何が書いてあるのかわからない。女性行員もなんと説明すればよいのかわからなかったのだ。
隣に座る行員に助け舟を求めると、その行員は「ブラックかハーフグレーかって聞けよ」と答えたというのだ。「ヤクザか半グレかと聞きたかったのでしょう。ブラックジョークみたいな話ですが、真顔でそう言われて。女性行員もさすがにそれはないと思ったらしく、しばらく考えた後、アンチソーシャルですか?と聞いてきました」 外国人にも”ヤクザ”という単語を知っている人は多い。Mさんは「ヤクザかと聞かれた方がわかる。もしくはマフィアだとイメージできる」。
1月にウクライナから避難してきた4人家族も、郵便局で口座を開設する際、この暴排条例にサインを求められた。その時、家族に付き添っていったのは、ロシア語が多少話せるという若い頃はやんちゃだったT氏。窓口の女性はてきぱきと口座開設手続きを進めていったが、一枚の紙を取り出すと、「これにサインが必要なんですが」とT氏の目の前に差し出した。その暴排条項を見たT氏は思わず「俺?」と聞き返した。
窓口の女性は「いやいや違います。なんと説明していいのか」と口ごもった。「ウクライナから逃げて来たばかりですよ。子供連れですよ。ありえないでしょう。いらないんじゃないですか」と答えると、「そうですよね」と女性は一旦、誓約書を引っ込めたが、やはり署名は必要らしくサインを求められた。「マフィアかヤクザかといえば、外国人にはわかる」とT氏は言う。
反社会的勢力を英語に訳しても、ピンとこない外国人は多い。説明に困ったら、ヤクザかマフィアという言葉を使ったほうがいいだろう。