岸田文雄首相はこども・子育て政策についての基本的考え方のひとつとして「構造的賃上げを通じた消費の活性化」について述べた。2023年3月17日(時事通信フォト)
政府は最低賃金の引き上げに躍起になっているが、業界によっては「賃金を上げても集まらない」ケースも見受けられる。
「外食に限った話ではないが4月から中小店舗の時間外労働(の割増賃金)も上がる。大手はすでに人手不足解消のために賃金アップを含めた待遇改善を始めているが、中小は厳しいのでは」
4月から労働基準法の改正で中小企業も1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられた。従来は25%だったので倍ということになる。50%ということは大企業と一緒、飲食(小売)業界では「資本金の額または出資の総額5000万円以下」、常時使用する労働者数が50人以下も大手と同様の割増賃金を支払うことになる。深夜勤務では50%の時間外割増賃金率に深夜割増賃金率の25%で75%の割増賃金を支払わなければならない。労働者にとっては朗報だが、中小の淘汰はさらに進む。
それでも実際に働くということは「金の問題」だけでもないのが現実、人手不足が解消するかは不透明だ。イオングループはパート従業員40万人の時給を平均7%上げる。大手はそれぞれにパートやアルバイトを囲い込むために必死、コロナ禍を乗り越えて、次は労働者の奪い合いだ。
かつて「代わりはいくらでもいる」と新卒や非正規を使い潰してきた「失われた30年」の日本とは明らかに変わろうとしている。ついに人口が1億2494万人(総務省推計)と1億2500万人を切ってしまった日本、12年連続の減少で人口のほぼ3割が65歳以上である。頼みの外国人も他の先進国、一部の新興国に比べて賃金が低いため必要なだけ来てくれるかもまた不透明だ。ウィズコロナ、もしくは「アフターコロナ」と言ってもいいのだろうか、2024年問題や労働基準法の改正も含め、以前のような「代わりはいくらでもいる」という価値観はもはや通用しない時代になろうとしている。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。