屠畜は技術がいる。まして大型の家畜である。
「代わりはいくらでもいる、と高をくくっていたのか知らないが、トラック業界の2024年以降もそうなりかねない」
個々の問題はともかく、こうした流れはおそらく日本全体に広がるであろう象徴的な事例である。オンリーワンの技術者を非正規で、それもボーナスなしに契約更新しては、事情はともかく虫のいい話と思えてしまう。
「運送業界にもよくある話だ。昔と違って若い人も来ない。最近は中高年の転職組も減っている。まして働く先は多様化している。なにもドライバーなんて、という雰囲気がインターネットの書き込みでもわかる」
少子化と価値観の多様化は昭和や平成のような「代わりが誰でもいる」と言って若者を集めるには難しくなっている。それがわからない古い価値観の経営者や荷主、客が同じような目に遭うかもしれない。
この件を別の宅配便ドライバーに話すと、「あまり行儀のよい言い方ではないが」という断りとともに心情を語ってくれた。
「一度痛い目に遭えばいいとすら思う。それほど物流の現場は厳しい。命を削るような運転を日々させられるのに見合わない。仕事がきちんと評価される、対価がきちんと支払われる。それは当たり前の話だ。ミスや遅れは逃さず厳罰なのに、自分に都合のいいことは安く済ませる、ひどいとタダ働き、それが日本の物流の現場だ」
もちろん心ある経営者や荷主によって正しく成り立つ現場もあるだろうが、残念ながら多くはそうではない。そうではないから国は2024年4月1日以降、働き方改革関連法を施行せざるを得なくなった。
2月に発表された経済産業省の中小企業庁の取引調査員(下請Gメン)による調査でも最低評価は価格交渉で不二越、価格転嫁は日本郵便だった。燃料高騰などのコスト上昇分の価格交渉にも応じないどころか自社のコスト上昇分を転嫁する数値(0点未満)の結果となった。
また、公正取引委員会による荷主3万名、物流事業者4万名を対象とした「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」(2022年5月報道発表資料)によれば「代金の不当な変更」「代金の支払い遅延」「代金の減額」「不当な利益の提供要請」「割引の困難な手形交付」「買いたたき」「下請に対する報復」が総計737件(その他4件含む)も報告されている。これがこの国の物流の現実である。