「東急歌舞伎町タワー」に設置されたジェンダーレストイレ(時事通信フォト)
女性用トイレをなくさないで
2000年代、筆者がアニメやゲームの音声収録にスタジオを使う際、収録会社の方が言っていた。
「男女別のトイレがあるスタジオ、いまやこれは絶対です」と。
彼の一意見とはいえ「確かに」と思った。女性声優のあとに男性関係者、男性関係者のあとに女性声優というのは「仕事だから」と言われても、逆に「仕事だから」こそ本当に困った。遡ること1990年代、使用するスタジオによっては本当に狭く、トイレも共用で音も含めて「何をしているか」がわかってしまうようなスタジオが普通にあった。だから当時、筆者はなるべく「トイレは女性声優のもの」と使わずにいたが、長丁場や体調によっては使わざるをえない。センシティブな話なので細かく書かないが、とくに「女性声優しかいない」現場は気を使った。もちろん気にしない関係者や女性声優もいたが少数派で、
「トイレは男女別のスタジオにして欲しい」
と、冗談交じりとはいえスタッフにこぼす女性声優もいた。
「うちの事務所、やっと女性専用トイレのある事務所になった」
こう喜ぶ女性声優もいた。小さなマンションに入っているような声優事務所では稀にトイレが一つしかなく男女兼用になっていた。それが雑居ビルの一角に移転して、そこは男女でトイレが分かれていたということである。本当に喜んでいた。トイレとは男女とも、本当にセンシティブな問題だ。
別にこうした特別な対象や仕事の話でなくとも「男性が使ったあとを女性が使う、女性が使ったあとを男性が使うトイレ」が昭和から平成初期に多数存在し、それが女性の本格的な社会進出や権利の尊重の高まりによって「男女別トイレ」となった歴史がある。先人たちが「女性専用トイレを」と声を上げた歴史がある。そもそも「人間という動物のオスとメスにある器官の問題」というシンプルな都合もある。
ちなみに商売の話なら「男女別のトイレは繁盛に絶対」と言われたこともあった。かつての飲食店もトイレは男女兼用が多かった。だから兼用でなく分けたら女性客が増えて繁盛した、という話で、古く経済誌などにも見られる。現に2023年、そればかりが原因ではないが、多くの施設や商店はトイレが男女で分かれている。
「ジェンダーレストイレがあるのはかまわないけど、女性専用トイレは男性専用トイレと同様になくさないでほしい」
件の女性に意見を求めた際の言葉を改めて記す。すべてが個別に専用であるのが理想だが、施設の事情はもちろん「それはジェンダーではない」という考えもあるから難しい。