――本作は“生きがい”も大きなテーマになっています。2人の生きがいとは?
町「ポリーは周りが男性だらけで強気に過ごしているけれど、どこかで情熱的に誰かを愛したいし、お父さんのことも愛しているし、デッドロックのみんなのことも愛していると思うんです。きっと“愛”というものに生きがいを感じている気がします。それは自分自身にも通じることですね。
それでいうと、劇団四季がコメディ作品で全国ツアーを行うのは久しぶりなので、愛情たっぷりに明るいパワーをお届けしたいです」
萩原「ぼくもボビーと一緒で、ずっと劇場が好きなんです。配信の良さももちろん理解しているんですが、劇場に来ていただくっていうのが本当にぼくらにとってこの上ない喜びなんですよね。とくにコロナで厳しいときを経て、劇場に来てくださるお客さんというありがたみと、みなさんそれぞれ生きているんだってことにすごく感動するようになっちゃって。言葉では言えない、目頭が熱くなるくらい、幸せを感じるんです。だからこの仕事がさらに好きになりました。
そう考えると、悪いことばかりじゃなかったなって。嫌なことはこれからもいろいろあると思いますけど、劇場の中だけは何にもそういうのに縛られない世界でありたいと思います」
母親から劇場の差し押さえを命じられ、ネバダ州の砂漠の町「デッドロック」を嫌々訪れたボビーは、そこでポリー(手前・町)に一目惚れ。2人はダンスで心を通わせるが…
ボビー役の萩原とポリー役の町。「劇場に足を運んで、一緒に笑って楽しんでほしい」と声を合わせる
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開演に先立って行われたメディア向けの合同取材会では、取材陣からも異例ともいえるほど大きな拍手が送られた。その4日後、どうしてももう一度観たくなって会場に足を運ぶと、今度はカーテンコールが終わって場内の照明がついても拍手が鳴り止まず、もう一度幕が上がってボビーとポリーがアツアツのパフォーマンスで応えてくれた。
「観れば必ず幸せになれるラブ・コメディ」は「観れば誰もが虜になる」作品。その真偽を自分の目で確かめて欲しい。
『クレイジー・フォー・ユー』横浜公演は、KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉にて7月22日まで。8月26日から全国ツアーが行われる。
ボビー(中央・萩原)は、母親(右・中野今日子)から銀行の仕事を、婚約者のアイリーン(左・岡村美南)から結婚を迫られ、うんざりしていた
ポリーとの結婚を画策するランク(右・渡久山 慶)は、ポリーの父で劇場のオーナー・エベレット(左・池田英治)に劇場の買収を持ちかける
ショーの準備を進めるなか、次第に活気を取り戻していくデッドロック。そこへ本物のザングラー(中央・荒川務)が現れる
演じることの喜びを実感する住民たち。その演出には遊び心がたっぷり
【STORY】
1930年代、ニューヨーク。銀行の跡取り息子、ボビー・チャイルドは仕事も婚約者も放り出すほどダンスに夢中。仕事を抜け出しては大物プロデューサーのザングラーに自分のタップダンスを売り込む日々だったが、なかなかうまくいかない。そんな中、母の命令で砂漠の町にある劇場を差し押さえるためにやって来たボビーは、そこで出会った娘ポリーに一目惚れしてしまう。ダンスを通じて2人の距離は縮んだかと思いきや、実はポリーは劇場のオーナーの娘。正体を知られたボビーはあっけなく振られてしまう。そこでボビーはザングラーになりすまして劇場を救い、ポリーに振り向いてもらう作戦に出る。しかしポリーが恋に落ちたのは、ボビーが化けたザングラー。さらにそこへ本物のザングラーが現れる。次から次へと起こるハプニングの中、ショーの初日は迫って来て…。
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【Information】
最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』開幕決定!!
『ゴースト&レディ』
劇団四季の最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』が、2024年5月からJR東日本四季劇場[秋](東京・竹芝)にて上演される。物語は19世紀のヨーロッパを舞台に、近代看護の礎を築いたフロー(ナイチンゲール)と、芝居好きなゴースト ・グレイのファンタジック・ラブストーリー。クリミア戦争や看護、偏見、差別といったシリアスなテーマを含みながらも、ユーモアやラブロマンス、冒険要素も盛り込まれた、壮大なエンターテインメント作だ。
原作は、『うしおととら』や『からくりサーカス』などで知られる藤田和日郎氏のコミックス『黒博物館 ゴーストアンドレディ』。演出は、ミュージカル『ノートルダムの鐘』(2016年劇団四季初演)を手がけたスコット・シュワルツ氏。四季のオリジナルミュージカルを海外の演出家が担当するのは今回が初めてとなる。チケット発売は2024年1月から。
撮影/五十嵐美弥(本誌) 取材・文/辻本幸路