武田鉄矢が語った「夢」
これは是非、書いてほしいんですけど、実は僕には夢があって、いつか松本人志さんに「武田さん、映画やりません?」と誘われることなんですよ。何とか、彼の映画製作意欲に火を付けられないか、と思っています。松本さんは映画に対して、映像作家たるべき才能、情熱をもっていますよね。あんまり過激なのじゃなくて、少し丸い映画を作ってもらって、そこに出演したいですね。
また、くらべられたくないと思いますが、松本さんは若かった島田紳助クンのイメージと繋がります。僕は紳助クンに芝居の才能がある気がして誘い込んだことがあるんですよ。1982年放送の単発ドラマ『幕末青春グラフィティ 坂本竜馬』(日本テレビ系)で、私が竜馬役で、紳助クンには竜馬の同志で、土佐の郷士の沢村惣之丞を演じてもらいました。私は33歳、紳助クンはまだ20代でした。
続編の『幕末青春グラフィティ 福沢諭吉』でもご一緒しまして、紳助クンはいつも楽屋の人気者でした。主役は中村勘九郎(後の十八代目中村勘三郎)さんで、歌舞伎界の方でしたから、何となく皆が遠慮がちな雰囲気があったところ、紳助クンが「お正月の遊びはやっぱりコマを回すとかですか?」と話しかけたのがきっかけで、場の空気が盛り上がって一気に和んだんですよ。
でも紳助クンは引退してしまいました。松本さんも時々、引退を口にされることがありますが、それはいかにトップランナーであるか、という証だと思います。芸能界のトップを走る人の駆け引き。マラソンでもトップ集団を走るランナーは、あるときはスピードを落として、他のランナーの後ろに回って風を避けたりするじゃないですか。あれと同じ。芸能界で長くトップを走っていたら、突っ走り続けるだけじゃ最後まで走りきれませんから。私はそう思っていますね。
【了。前編から読む】
取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/山口比佐夫