活躍が続く松嶋菜々子
この親にこの子供? という配役は、ドラマや映画ではよくあることだが、個人的に『王様に捧ぐ薬指』では初めて見た時から、この親子に妙な違和感があった。雰囲気が違うというか、空気が違うというか。最初は柔らかい笑顔を見せていたのに、回を重ねるごとに笑顔が変化していく。息子に執着しているという役から、嫁に息子を取られたという感情や嫁への嫉妬心を笑顔の裏に隠しているのかと思ったが、東郷役の山田さんに向けた笑顔は張り付いたようで、視線が冷たく温かさが感じられない。母親らしい柔らかく優しいはずの笑顔の目元や口角が硬くぎこちなく、まるで奥歯を噛みしめているようにも見える。
原作を読んでいた視聴者なら、この違和感が何を意味したのかすぐにわかっただろう。5月16日に放映された第5話で、その違和感が解き明かされた。山田さん演じる東郷は松嶋さん演じる静の実の子供ではなかったというのだ。微笑みが冷たく感じられる理由もこれで納得。息子を溺愛しながらも、そこには正妻として育ての母としてのプライドや支配欲が含まれているのだろう。
松嶋さんという女優は、外見や立ち居振る舞いによるところも大きいが、プライドが高い役がよく似合う。またそういう役を演じるのがうまい。それは彼女の演じる不敵な笑顔から「コントロールの錯覚」というバイアスが見えてくるからだと思う。コントロールの錯覚はコントロール幻想とも呼ばれるが、自分でコントロールできないことでも、コントロールできているかのように過信する傾向のことをいう。すべで自分の思うままに進めている、進んでいるような錯覚を抱くのだ。そしてそのような錯覚をわかりやすく表してくれるのが、プライドが高そうな人の笑顔だ。
ドラマはこれから後半へと入っていく。松嶋さん演じる静がこれから何を仕掛けていくのか、その笑顔が美しいほど怖くなる。