いよいよ解散・総選挙を視野に入れた岸田文雄・首相の足元で、政権を揺るがしかねない事態が進んでいる。自民党と公明党の亀裂だ。きっかけは総選挙の候補者調整をめぐる岸田首相の強硬姿勢だった。
「公明党の要求を飲むのは無理だ」
サミット期間中の5月19日、岸田首相は自民党本部で緊急の会議を開き、東京28区(練馬区東部)での公明党候補への一本化を突っぱねることを最終決断した。
「自民党が認めなければ、東京の自民党候補には推薦を出さない。組織としての最終決定だ」
石井啓一・公明党幹事長は自民党側に自公選挙協力解消の覚悟まで通告していただけに、同党内では岸田首相の決定に不満が噴き出している。公明党東京都本部の地方議員が怒る。
「東京は衆院選で5つも選挙区が増えるのに、1選挙区もくれないというのか。公明党は20年以上にわたって選挙で自民党に貢献してきたが、これでは割に合わない。協力は終わりになる」
こうした自公の険悪ムードに、自民党内でも菅義偉・前首相が早期解散論に「そんな状況ではない」と強く反対してきた。菅氏は官房長官、首相時代から創価学会中枢に太いパイプを持ち、とりわけ創価学会の政治担当を長く務めた佐藤浩・副会長との蜜月ぶりはよく知られている。
実は、今回の公明党の小選挙区候補擁立には、支持母体の創価学会の意向が強く働いており、その佐藤副会長が動いているという情報がある。
今回の東京28区の自公協議の背後でも、「公明党の石井幹事長を佐藤副会長が叱咤激励している」(公明党関係者)という。
創価学会に聞くと「この種の質問にはお答えしておりません」(広報室)と回答した。なぜ、創価学会側は公明党の候補者を増やしたいのか。季刊誌『宗教問題』編集長の小川寛大氏は、背景にあるのは創価学会の危機感だと指摘する。
「800万票といわれた創価学会の集票力は、昨年の参院選で約618万票(公明党の比例得票)まで落ち込んだ。4月の統一地方選でも、公明党は練馬区議選で4人落選するなど東京の区議選全体で8人が落選した。組織が高齢化し、会員数が減ってきているからです。
創価学会は国政や地方議会に強い影響力を持つことを武器に組織を支えてきた面が強いため、政治力の低下は組織の弱体化につながる。次の総選挙で比例代表での当選が減れば死活問題。だから、小選挙区からの出馬を増やして、政治力の維持、組織の維持を図ろうとしているわけです」