では、公明票を失えば、自民党はどれだけ議席を減らすのか。それを示す自民党の内部資料を本誌・週刊ポストは入手した。『第49回衆議院議員総選挙結果調』の表題があるA4判164ページにおよぶ冊子で、自民党選挙対策本部が前回総選挙(2021年10月)のデータを集計・分類・分析したものだ。
資料によると、自民党が推薦した公明党候補(小選挙区)は9人全員当選。うち7人が得票率50%以上だった。一方、公明党から推薦を受けた自民党候補は263人(自民の小選挙区候補総数は279人)で、当選者は233人(小選挙区当選180人、比例復活53人)。落選は30人だった。
自公選挙協力の効果について詳しく分析されているのが、「小選挙区と比例代表の得票差」の項目だ。小選挙区ごとに「自民党候補の得票」と「比例代表での自民党の得票」そして「得票差」が計算され、その選挙区での公明党の比例代表の得票などが一覧表にまとめられている。これを見ると、各選挙区での公明票への依存度が一目瞭然にわかる。
たとえば、自民の土井亨・代議士が次点の立憲民主党候補に約5000票差で競り勝った宮城1区を見ると、土井氏の小選挙区での得票は10万1964票だが、同選挙区での自民の比例代表得票(自民の基礎票)は7万7342票にとどまる。「得票差」2万4621票が基礎票に上乗せされた。ではその票はどこから来たのか。同選挙区での公明党の比例の得票は2万3646票あった。「得票差」とほぼ同じだ。土井氏は公明党の推薦を受けており、この公明支持票の多くが「比例は公明、選挙区は自民」と小選挙区の投票では自民党の土井氏に上乗せされ、対立候補に競り勝って当選できたと推定できるのだ。
当落を左右できる集票力
自民党資料では公明党の比例得票が小選挙区ごとに再集計されている。それによると、全国289選挙区の中で公明票が最も多かったのは萩生田光一・自民党政調会長の地元・東京24区で4万3736票。「3万票以上」は53選挙区、「2万票以上」になると200選挙区を超える。小選挙区では10万票取ればまず当選圏内とされるだけに、当落を左右できる集票力を持つことがわかる。
自民党や民主党の事務局で選挙に携わった政治アナリストの伊藤惇夫氏は、公明票が得られなくなれば、自民党でまず落選危機に直面するのは「接戦で当選した56人」だと指摘する。
「公明党の比例での得票のすべてが創価学会など公明党支持者の票というわけではなく、自民党候補が公明党の推薦をもらうかわりに『比例は公明党に』と呼びかけて自民党支持者が入れた票も一部含まれる。それでも自民党の資料は公明党・創価学会の集票力を測るには貴重なデータです。自民党には前回総選挙で次点との得票差が2万票未満で当選した議員が56人いる。自公選挙協力が解消されて公明票が入らなくなれば、これらの議員の多くは当選が難しくなると予測されます」
【表組み注】自民党内部資料を基に、自民党現職議員がいる選挙区で「公明票」が多い順に並べた。公明票が消えたら得票差がマイナスになる選挙区は「落選危機」、公明票が消えても得票差がややプラス(1万票未満)は「当落線上」、公明票が対立候補に寝返れば得票差が大きく縮まるケースを「接戦へ」とした。敬称略。
※週刊ポスト2023年6月23日号