もちろんガーシー氏はUAE国内で政党を結成しようなどと動いたこともない。このような動きもあり、国外退去の線は可能性が低いと考えられていたのだ。ガーシー氏の暴露行為について「既存体制と権力に対する破壊的精神がある」と称賛を口にしていた大谷氏本人は急転直下の逮捕を受け、私の取材に悔しそうにこう語った。
「可能性は低いと見積もっていた政府間の協議が成立してしまった。ガーシー氏の容疑は民事裁判で解決されるほどのもので、刑事事件にする内容ではないはずだ。実際の行為とこの仕打ちは天秤が釣り合わない。殺人など凶悪犯に適用される赤手配への格上げなども完全におかしく、(木原誠二官房副長官らを攻撃対象にするなど)日本の国家権力に楯突いた者への弾圧としか考えられない」
【プロフィール】
伊藤喜之(いとう・よしゆき)/1984年、東京都中野区生まれ。作家・ドバイ在住。早稲田大学政治経済学部卒業後、2008年に朝日新聞社に入社。松山総局(愛媛)を振り出しに、東日本大震災後には南三陸(宮城)駐在。大阪社会部では、暴力団事件担当として指定暴力団山口組の分裂抗争などを取材する。その後、英国留学を経て2020年からドバイ支局長。2022年8月末で退職し、同9月からドバイ在住の作家として活動している。
※週刊ポスト2023年6月23日号