心安らかに過ごしたいもの(イメージ)
これまでの経験では、あいている席に座ったときに、隣りの人が腰を浮かせるフリをしてくれる確率は、だいたい半分ぐらいでしょうか。半分ぐらいの人は微動だにしません。そして動かない人に限って、向こう側にまだスペースがあったり、両足が豪快に開いていたり、上着の裾がこっちの席にはみ出していたりする傾向があります。
もちろん、動かないことはマナー違反でも何でもありません。我ながら細かいことを気にしているというのは重々承知です。しかし、日常生活で他人の前を横切るときは手刀を切るように、無意味とも言える細かい所作の積み重ねこそが、日常生活のストレスを軽減し、誰もが気持ちよく過ごせる世の中を作るのではないでしょうか。
何より、自分が先に座っている場合は、頑なに動かないでいるよりも、たとえ意味はなくても腰を浮かせるフリをしたほうが、心安らかに座っていることができます。マナーは人のためならず。座った側はこっちが腰を浮かせようがどうしようが気にしていない可能性も大ですが、自分のためにやっていることなのでぜんぜんかまいません。
そんな私の小さくて細かい主張に共感してくださる方も、少なからずいらっしゃると信じています。いつの日か「電車で隣りの席に誰かが座るときは腰を浮かせるフリをする」というさりげない振る舞いが、混んだ電車ではリュックを前に抱えるのと同じぐらい、誰もが実行する「常識」になりますように。
そうなった暁には、電車内は今よりもっと「気配り」に満ちた空間になり、世の中も今よりもう少しやさしくなるでしょう。ベビーカーの親子連れが冷たい目を向けられるという悲しい事態もなくなり、すいている電車で優先席に座る人を非難するというトホホな発想も消滅するに違いありません。そうなることを願って、私は今日も電車内で腰を浮かせるフリをします。