苦じゃないと言われると、日本語教師としてはとても嬉しい。言語マニアのマライさんの目に、日本語はどんな言語に映っているのだろうか。
「シンプル。すごくシンプルです。『食べます/食べません』『食べました/食べませんでした』の2つの時制しかない。それで全部できちゃうんだ、楽! って最初は思いました。ドイツ語は男性名詞、女性名詞、中性名詞もあるけど、日本の名詞には性別もないし複数形を覚える必要もない。でもその分、通訳する時にちょっと困ることもあります。『子供がフランスにいて』って言われたら、何人いるんだろう? って思う」
時制、名詞の性別、単数複数について、第2回のインタビューでイタリア人のイザベラ・ディオニシオさんもまったく同じことをおっしゃっていた。日本人は日本語を難しいと思っているふしがあるけれど、こういう話を聞くと「日本語は果たして難しいのか」と思わずにはいられない。
「表記が3種類(ひらがな、カタカナ、漢字)だとか敬語があるとか、もちろんハードル、特徴はありますよね。あと省略。日本語は省略が多くて、ふわっとしてる。ドイツ語はかっちりしてて省けない文化なんですけど、日本語は『私は』っていちいち言わないとか、省くほうが自然な言語。そのことに気付いて『よし、省いてみよう』って思って試してみると、省くところが良くなくて伝わらなかったり、そういう試行錯誤はありました」
(第4回に続く)
【プロフィール】
マライ・メントライン/1983年生まれ、ドイツ北部のキール市出身。姫路飾西高校、早稲田大学に留学。ボン大学卒業後の2008年から日本在住。NHKドイツ語講座などに出演。2015年末から独テレビ東京支局プロデューサー。翻訳、通訳、著述、番組制作と幅広く活躍中の「職業=ドイツ人」。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。