意地の悪いせりふは、彼女が乗り移ったかのように書いた
小説の冒頭でスカーレットは16歳の少女だが、終盤では30代になっている。3度の結婚と出産、戦争と飢餓、家族との別れを経験した彼女の変化も小説に反映されるよう、言葉の選び方に気をつかったそうだ。
「ドレスの描写は、最初に読んだときから夢中になりましたし、今回、書いていてもわくわくしました。スカーレットは欲望に忠実なので、南部のごちそうを食べる場面も書いていて楽しかったです。
『このホールで私より綺麗な女はいなかった』とか『不格好な赤毛の娘、ウエストなんか百センチもありそうな女』とか言いたい放題。意地の悪いせりふは、スカーレットが乗り移ったかのように書いていましたね」
他人のウエストサイズに厳しいスカーレットの細腰は、コルセットで締め上げると17インチ(43センチ)という設定だ。映画のヴィヴィアン・リーのイメージもあってものすごい美人の印象だが、じつは原著の1行目に「スカーレットは美人ではない」と書かれている。
「あのスカーレットが『ノット・ビューティフル』って、どういうこと?って思いますよね。小説の中にも美人だ、美しいってその後、何度も出てきます。おそらくこれは、メラニーのような淑やかな典型的南部美人ではないということだと思って、『私はいわゆる南部美人、というのではないかも』としました」
恋愛小説のヒロインが、まったく母性のない女性に描かれているのも興味深い。
「スカーレットは子どもを3人産んでいるんですけど、『子どもなんか欲しくない』『うるさい』と言って、これっぽっちも母性がない。それでも戦火のアトランタから逃げるときはメラニーや生まれたばかりの赤ん坊を抱えて逃げるし、仲のよくない妹の面倒も見ています。自分がやるしかない、と思えばやるタイプの女性です。
マーガレット・ミッチェルが慎重に書いているなと思うのは、たとえばアトランタの製材所で利益を上げるために彼女は囚人を使うんだけど、責任者の男が囚人にきちんとした食事をさせていないとすごく怒るんです。読者が彼女から離れてしまわないように注意深く書かれています」
奴隷制存続を主張する南部を舞台にした『風と共に去りぬ』は、近年、人種差別を肯定的に描いていると批判されることもあるが、それほど単純な内容ではない。発表されたのは南北戦争が終わって約70年後で、執筆当時あの戦争が南部でどのように語り伝えられていたかが理解できる。
父の形見の金時計をもらった黒人の使用人頭のポークは、約束を忘れなかったスカーレットに、「黒人にしてくださる半分でも、白人の方々に親切になさったら、世間もスカーレットさまを見る目が変わると思うんですが」と言う場面がある。
「人種に関係なく、黒人でも白人でも、嫌いな人は嫌い、好きな人は好きってところがはっきりしているのがスカーレットですね」