当時の報道によれば、宮城県のコストコの面接には約1000人の応募者が集まったという、うち約400人が採用されたと報じられたが、人手不足に嘆く周辺企業、店舗からすれば羨ましい限りだろう。もっとも、採用者全員を1200円以上の時給で雇えばいいだけなのだが、それができない。
岸田文雄首相は最低賃金の「全国平均1000円」(全国加重平均)を目指すと表明した。それに向けて中央最低賃金審議会で議論が始まったが物価高騰による賃金アップには労使の協力が不可欠だ。それにしても1000円、私見だが、標榜する「グローバルスタンダード」にはほど遠い金額のように思う。ちなみにこの国で最低賃金時間額(厚生労働省)が1000円を超えているのは東京(1072円)、神奈川(1071円)、大阪(1023円)しかない。
冒頭の経営者は群馬における「次のグローバルスタンダード」にも危機感を募らせる。
「北関東で初めてイケアができる。コストコほどではないが正社員が前提で数百人採用だ。イメージもいい。なにもかも、群馬の小売でグローバルスタンダードに勝てる店なんかない」
イケアはスウェーデン発祥の世界的企業。イケア・ジャパンによれば2024年のIKEA前橋の開業で約250人を新規採用、基本的に正社員採用だと報じられている。もちろん外資系ということでシビアな面はある。いきなりの撤退もありうるだろうが、それは日本の小売もショッピングモールなど最たるものだが同じようなもの、むしろ低賃金のまま日本的で不透明な賃金体系で働かせる地方の小売業界などは外資以上に先行き暗い話ばかりだ。
コストコ、イケアの好調ぶりを背景に、その他のまだ日本に進出していない世界的企業も「安い賃金に甘んじている、真面目で、よく働く」日本人労働者に注目していることが経済誌で報じられている。こうした「グローバルスタンダード」が地域の、とくに最低賃金で1000円もいかない44道府県、地方労働者の賃金を引き上げてくれる起爆剤となるのだろうか。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。