ライフ

【新刊】情事を隠さない妻、悪妻にされた妻…6作の短編を収録、桐野夏生『もっと悪い妻』など4冊

二人の男を等しく必要とする妻。満たされた女は「悪い妻」ですか?

二人の男を等しく必要とする妻。満たされた女は「悪い妻」ですか?

 連日のように厳しい暑さが続き、熱中症のリスクが高まっている。外出を控えて、涼しい屋内で読書を楽しむのはいかが? おすすめの新刊4冊を紹介する。

『もっと悪い妻』/桐野夏生/文藝春秋/1760円
 娘を産んで女性バンド休止中の千夏。ライブハウスで人気の6才下の夫は育児に無関心ばかりか千夏の悪妻ネタで笑いをとる安田の肩を持つ(「悪い妻」)。夫に“誰か大事な人がいるの?”と聞かれ“いるよ、だって親友だもん”と答えて情事を隠さない37才の麻耶(「もっと悪い妻」)ほか、夫の死後を充実して過ごす女性など6編。寸止めのラストが物語のその後を想像させ刺激的。

自分だけが苦しい……そんな時、杖となってくれる言葉たち

自分だけが苦しい……そんな時、杖となってくれる言葉たち

『光であることば』/若松英輔/小学館/1650円
 冒頭の「希望について」に深く頷く。曰く、願望と希望は違う、人の数だけあるのが願望で、それはしばしば欲望に転じる。しかし希望は個人を超え普遍に向かって収斂していくもの。だから希望は持つのではなく「抱く」ものだと。苦しみ、悲しみ、孤独や詩歌の力など、著者の思索によって紡がれたコトノハたち。巻末には引用した本のリストも。緑陰のような読書体験をする。

歯切れのいい「オノマトペ言語起源説」。保育園はオノマトペの宝庫とか

歯切れのいい「オノマトペ言語起源説」。保育園はオノマトペの宝庫とか

『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』/今井むつみ、秋田喜美/中公新書/1056円
 ぐつぐつ、ぼわぼわなど日常語の「オノマトペ」。オノマトペは文芸の言葉でもあるのだなあと思ったのは初期の川上弘美作品を通してだった。だから冒頭の提起「オノマトペはれっきとした言葉だろうか」に違和感を持ったが、中程で納得。著者達はオノマトペを周辺に追いやった近代言語学の祖ソシュールに喧嘩を売っていた! 保育園児のママ達もすごく共感する一冊だと思う。

中央公論文芸賞受賞作。1行1行の密度が濃い家族小説

中央公論文芸賞受賞作。1行1行の密度が濃い家族小説

『家族じまい』/桜木紫乃/集英社文庫/748円
 夫婦卒業とか家族解散という言葉はあるが、墓じまいならぬ家族じまいかと、言葉のインパクトに打たれる。啓介と結婚して25年の48才の智代、啓介の弟と年の差婚をした27才の陽紅、両親と同居し始める智代の妹の乃理、姉妹の母サトミと姉の登美子の再会など、女達の人生それぞれが鮮明に浮かび上がる。桜木流の至言「縁なんて自然に切れるもの」の一言は、むしろ希望かも。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年8月3日号

関連記事

トピックス

球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン