パブピアでの指摘(2003年の論文)。「Figure5B」と「Figure4C」は別の論文での実験画像だが、同一画像のコントラストを変えて、使い回した可能性がある

パブピアでの指摘(2003年の論文)。「Figure5B」と「Figure4C」は別の論文での実験画像だが、同一画像のコントラストを変えて、使い回した可能性がある

 パブピアでの指摘に対して責任著者がサイト上で回答しているケースもあるが、大津氏は現時点で何も反応していない。

 こうした基礎研究の大半が、文部科学省の「科研費(科学研究費助成事業)」によって行われる。

 それはつまり“国民の税金”で賄われる研究ということだ。大津氏が不正を指摘された7つの研究論文のうち6つは、科研費が入った研究課題の発表論文である。研究課題全体に支給された科研費は総額7916万円にも上ることが、取材班の調べで判明している。

 これだけ多額の科研費が投入されても、不正行為があれば研究論文としての価値は無に帰する。

 数多くの研究論文を手掛けてきた日本医科大学の勝俣範之教授はこう述べた。

「驚きました。これが事実だったら、前代未聞の不正行為です。心臓病の分野で日本のお手本となる国立病院のトップが研究論文の捏造や改ざんをしていたのなら、医学研究の信頼性が根本から揺らいでしまう。重大な日本の危機です」

 勝俣教授によると、これまで画像の使い回しなどを“人の目”で見抜くことは現実的に難しかったという。ではなぜ、パブピアでこれだけ多くの不正の疑いが指摘できたのだろうか?

「最新のAI(人工知能)を使って過去の膨大な論文のデータベースと照合した結果だと思います。研究論文は専門家による査読という事前審査がありますが、別の論文の画像と比較するまでは無理です。今回はAIでなければ見抜けなかった不正行為です」(勝俣氏)

大阪大グループの存在

 国立循環器病研究センターは、医療関係者の間で通称・国循(こくじゅん)と呼ばれる。

「東の国立がん研究センター、西の国循」と言われ、心臓病の治療や移植などで日本の司令塔というべき存在だ。米ニューズウィーク誌の「世界病院ランキング」で、心臓治療の2部門でアジア1位にもなっている。

 現在、国循の理事長を務める大津氏は大阪大学医学部を卒業。同大の循環器内科に進み、心不全の原因や治療薬の開発を目指す基礎研究グループの中心的存在となった。

 2002年当時、大津氏は大阪大の講師だったが、翌年以降に不正が指摘されている3本の論文を続けて公表した後、助教授に昇格する。

 その後、同様の指摘がある2本の論文を公表すると、英国キングスカレッジロンドン大に教授として招聘された。

 そして、前述の世界的な医学誌『Circulation』に論文が掲載された翌年、国循のトップとして凱旋帰国を果たしたのである。

〈9年間、海外から日本の現状をみて、大変な危機感を持ちました。(中略)これからさらに進化し、着実に一歩一歩、世界最高峰の循環器病研究センターを目指したいと思います〉と大津氏は理事長就任の挨拶を述べていた(国循の公式ホームページより)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

姜卓君被告(本人SNSより)。右は現在の靖国神社
《靖国神社にトイレの落書き》日本在住の中国人被告(29)は「処理水放出が許せなかった」と動機語るも…共犯者と「海鮮居酒屋で前夜祭」の“矛盾”
NEWSポストセブン
公選法違反で逮捕された田淵容疑者(左)。右は女性スタッフ
「猫耳のカチューシャはマストで」「ガンガンバズらせようよ」選挙法違反で逮捕の医師らが女性スタッフの前でノリノリで行なっていた“奇行”の数々 「クリニックの前に警察がいる」と慌てふためいて…【半ケツビラ配り】
NEWSポストセブン
「ホワイトハウス表敬訪問」問題で悩まされる大谷翔平(写真/AFLO)
大谷翔平を悩ます、優勝チームの「ホワイトハウス表敬訪問」問題 トランプ氏と対面となれば辞退する同僚が続出か 外交問題に発展する最悪シナリオも
女性セブン
2025年にはデビュー40周年を控える磯野貴理子
《1円玉の小銭持ち歩く磯野貴理子》24歳年下元夫と暮らした「愛の巣」に今もこだわる理由、還暦直前に超高級マンションのローンを完済「いまは仕事もマイペースで幸せです」
NEWSポストセブン
ボランティア女性の服装について話した田淵氏(左、右は女性のXより引用)
《“半ケツビラ配り”で話題》「いればいるほど得だからね~」選挙運動員に時給1500円約束 公職選挙法で逮捕された医師らが若い女性スタッフに行なっていた“呆れた指導”
NEWSポストセブン
傷害致死容疑などで逮捕された川村葉音容疑者(20)、八木原亜麻容疑者(20)、(インスタグラムより)
【北海道大学生殺害】交際相手の女子大生を知る人物は「周りの人がいなかったらここまでなってない…」“みんなから尊敬されていた”被害者を悼む声
NEWSポストセブン
医療機関から出てくるNumber_iの平野紫耀と神宮寺勇太
《走り続けた再デビューの1年》Number_i、仕事の間隙を縫って3人揃って医療機関へメンテナンス 徹底した体調管理のもと大忙しの年末へ
女性セブン
チャンネル登録者数が200万人の人気YouTuber【素潜り漁師】マサル
《チャンネル登録者数200万人》YouTuber素潜り漁師マサル、暴行事件受けて知人女性とトラブル「実名と写真を公開」「反社とのつながりを喧伝」
NEWSポストセブン
白鵬(右)の引退試合にも登場した甥のムンフイデレ(時事通信フォト)
元横綱・白鵬の宮城野親方 弟子のいじめ問題での部屋閉鎖が長引き“期待の甥っ子”ら新弟子候補たちは入門できず宙ぶらりん状態
週刊ポスト
大谷(時事通信フォト)のシーズンを支え続けた真美子夫人(AFLO)
《真美子さんのサポートも》大谷翔平の新通訳候補に急浮上した“新たな日本人女性”の存在「子育て経験」「犬」「バスケ」の共通点
NEWSポストセブン
自身のInstagramで離婚を発表した菊川怜
《離婚で好感度ダウンは過去のこと》資産400億円実業家と離婚の菊川怜もバラエティーで脚光浴びるのは確実か ママタレが離婚後も活躍する条件は「経済力と学歴」 
NEWSポストセブン
被告人質問を受けた須藤被告
《タワマンに引越し、ハーレーダビッドソンを購入》須藤早貴被告が“7000万円の役員報酬”で送った浪費生活【紀州のドン・ファン公判】
NEWSポストセブン