『VIVANT』もこれまでTBSの看板枠・日曜劇場でヒット作を連発してきた福澤克雄監督が初めて原作から手がけた意欲作。特に2か月半に渡るモンゴルロケで撮られた映像の迫力と美しさは、事前情報を控えたからこそインパクト抜群でした。
映画もドラマもネットの発達で情報過多になり、「見る前から食傷気味になってしまった」「宣伝臭が凄くて見る気がしない」などの声をあげる人が少なくありません。さらに、「失敗したくないからネタバレを読んでから見るか決める」という人がいる時代に、事前情報を伏せる戦略がハイリスクであることは間違いないでしょう。そんなハイリスクを承知で、あえてこの戦略を選ぶところが大御所たるゆえんなのかもしれません。
しかし、情報が少ないからこそ「宮崎監督と鈴木プロデューサーがどんな映画を作ったのだろう」「福澤監督がどんなドラマを作ったのかな」「野島さんはひさびさにどんな物語を仕掛けてくるのか」というワクワクを楽しむことができます。その点では、やはり過去の実績とネームバリューがある大御所ならではの戦略なのでしょう。
不要な先入観とミスリードを回避
また、クリエイターたちの「不要な先入観を与えたくない」「公開前や放送前にミスリードを避けたい」という思いから情報の多くが伏せられるケースもあります。事前情報を出すたびに多くのウェブメディアが記事化し、それを見た人々が「こういう話だろう」「こんな狙いがありそう」などの声が飛び交う状態を避けたいのでしょう。
その意味で『VIVANT』も『何曜日に生まれたの』も、どんなジャンルかすら分からない作品だけに、不要な先入観やミスリードを避けたかったのかもしれません。このところ公開前、放送前から事前情報だけで「見るか見ないか」を判断してネット上にそれを書き込む人々がいますが、この3作はそれを防ぐことができたのではないでしょうか。
実績とネームバリューのある大御所クリエイターでも、今回の「事前情報を出さない」という戦略は実験的なところがあったはずです。だからこそ公開や放送の終了後に、「世間の人々はどんな反応をしたのか」「内容さえよければ本当にクチコミで広がって見てもらえたのか」「宣伝を控えたことが、むしろ宣伝につながったのか」などの検証が行われるでしょう。