帝京といえば、昼食時に三合の白米の摂取を義務づける「三合飯」が有名だ。
「僕らの頃は量までは決められていませんが、監督には常々、『必ず1日に一度は親が作った料理を食べなさい』と言われていた。当時は自宅から通う生徒ばかり。学食で食べたり、外食することはあっても、必ず一度は家で食事をとるか、家で食べられない時はお弁当を作ってもらいなさい、と。その狙いというのははっきりとはわからなかったんですけど、2年半が経過すると、母親の料理を食べている選手のほうが、同じ練習、同じトレーニングをしていても、体が大きくなっていました。僕の場合は、1限目が終わると学食で食べて、2限目、3限目の間にも学食で食べて、お昼に母親の弁当を食べていました(笑)」
生まれた時からその選手のことを誰より理解する肉親の手作り料理こそ、体作りにおいて最も有効で効率的な食事の摂取の仕方だということなのだろう。
タレントの石橋貴明や元北海道日本ハムの杉谷拳士など、オフの時期にテレビ番組の収録などで帝京野球部OBと集まる機会は多い。
「“帝京魂”という言葉は野球部にはなく、貴さんがテレビで言い始めたことだとは思いますが、言葉遣いや礼儀のルール、しきたりはありました。現在では書けないような話もたくさんありますが、あとから振り返っても嫌な思い出は何一つない。前田監督は情熱の人で、選手との距離感が絶妙だった。選手の気持ちをのせるときと、少し苦しい思いをさせるときと(笑)、メリハリが上手だった。そんな監督も、夏の大会となると、顔も穏やかになって、優しくなるんですよ。普段の練習や練習試合では、どこか監督の顔色をうかがいながら野球をやっていた。だけど、大会となれば怒られることもないから、選手がのびのびと戦うんです。大会に向かう雰囲気作りは僕も参考にさせてもらっています」
帝京は2011年夏を最後に甲子園から遠ざかり、かつてのような強さを取り戻せない中でも、前田監督は情熱を失わず、72歳になった2021年までノックバットを振り続けた。前田監督こそ帝京魂の象徴であり、現在は独立リーグ・富山GRNサンダーバーズの監督を務める吉岡はその教えを継承している。
◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)