「狭くなった脊柱管を広げるのが前者です。全身麻酔をして背中の筋肉に数cmほどメスを入れ、脊柱管の神経を圧迫する骨などを削って神経を開放します。
後者は、除圧術を施したのちに金属製のスクリューなどを入れて骨同士を連結し安定させる方法です。脊椎を構成する椎骨が前や横にずれている場合に追加で行ないます」
2つの手術のうち注意したいのは、より大がかりになる固定術だ。
「除圧術より侵襲(ダメージ)リスクが高いうえに、術後に腰の動きが制限されたり、固定した上下の骨に負担がかかり、傷めてしまう恐れもあります。腰椎は5つの骨が椎間板というクッションを挟んで連結していますが、『5つあるので、1か所固定してもほかが動くなら大丈夫』と安易に固定術を勧める医師には気をつけたい。利点だけでなく術後のリスクまできちんと説明してくれる医師のほうが望ましい」
そのほか、骨が脆くなった骨粗鬆症患者や予備群の人に行なうと、腰椎のずれや変形が進行して腰が大きく曲がるケースもあるという。
一方で、除圧術を検討する際にも押さえておきたい点がある。
「脊柱管狭窄症の大きな問題は、画像所見と患者の痛みが必ずしも一致しないことです。脊柱管の複数の箇所が狭くなっている場合があるため、画像を見て医師が判断した原因箇所と、実際の原因箇所がずれてしまうこともあります。そうして的外れな除圧術をしてしまうと、症状が一向に回復せず、何度も手術を繰り返すケースがある。
除圧術を考える場合でも、画像ばかり注視せず患者の声に真摯に耳を傾けてくれる医師の下で行なうのがよいでしょう」
なるべくこうしたリスクは避けたい。そこで新たな治療法として注目されているのが「内視鏡手術」だ。
「背中に最小で数ミリ単位のメスを入れ、内視鏡を用いて圧迫箇所を開放する方法です。従来の切開による除圧術よりも身体的な負担が格段に小さく、有力な選択肢になっています」
新たな手術法を含め、「後悔」しない安全な治療を目指すことが重要だ。
※週刊ポスト2023年8月18・25日号