スポーツ

「自分に近鉄を語る資格があるんかな」 最後の近鉄戦士・坂口智隆が現役時代に抱き続けた葛藤

引退会見で笑顔を見せた坂口(時事通信フォト)

引退会見で笑顔を見せた坂口(時事通信フォト)

 近鉄、オリックス、ヤクルトでプレーした坂口智隆の初の自著『逃げてもええねん 弱くて強い男の哲学』(ベースボール・マガジン社刊)が刊行された。「僕は家族や周りの人に恵まれた」と話す坂口は本書の中で、近鉄時代に打撃コーチで指導を受けた鈴木貴久氏、かつてのチームメートで現在もプレーしているオリックス・T-岡田、ヤクルト・石川雅規、青木宣親などに対する特別な気持ちを綴っている。今回は、近鉄への思いについて明かしてくれた。【前後編の後編。前編から読む

 ドラフト1位で近鉄に入団した坂口の道標となった指導者が、当時二軍打撃コーチの鈴木貴久氏だった。高卒1年目にファームで打率.302をマークし、シーズン終盤には一軍デビュー。順風満帆に見えるが、内実は違ったという。

「プロの投手は直球の球威、変化球のキレが高校生と全く違う。最初はかすりもしなかったし、無理やって弱気になりました。でも、貴久さんは『プロに入る才能があるんだから自分の打ちたい形で打て』と。技術的な修正点はあったけど、結果が出なくて責められることはなかったですね」

 鈴木氏から口酸っぱく言われたのは、「空振りしてもいい」、「ファーストストライクを見逃すな」の2点だった。

 最初は戸惑いがあったという。プロではリードオフマンとして生きていかなければいけないのに、空振りしてもいいのか。次の打者のために初球から打ちにいくのではなく球数を投げさせたほうが良いのではないか……。結果が出ないと小細工したくなる。当時はファームでもレギュラーと言われる選手たちが固まっていたため、実績のない若手はなかなか試合に出られなかった。少ないチャンスを活かさないと試合に出られない。結果を欲しがって当てにいくような打撃をした時は、鈴木氏に怒られたという。

「朝早くからマンツーマンで練習についてくれて、夜間練習にも付き合って頂いた。野球をしている時は真剣だから張り詰めた雰囲気だったけど、ユニフォームを脱いだら気さくな温かい人で。高卒1、2年目の若造の僕に対しても同じ目線で接してくれて、ユーモアがあった。近鉄を象徴するような豪快な方でした。貴久さんから教わったことが僕の打撃の軸になっていますし、出会わなかったらプロの世界で通用せず消えていたと思います」

 恩師との別れは突然だった。坂口がプロ2年目の2004年5月17日。鈴木氏は40才の若さで急逝した。

「ショックが大きすぎて……何も考えられなかったですね。指導者という枠を超えて人間的にも大好きな方だったので、もっとたくさん話したかった。貴久さんのために1年でも長く活躍することが恩返しだと思ってプレーしていました」

関連記事

トピックス

「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト