世界有数の親日国パラオ

 まずは南洋諸島の定義だが、「太平洋西部の赤道以北、ミクロネシアのうち東端のギルバート諸島と西部にあるグアム島を除くほぼ全域、すなわちマリアナ諸島、マーシャル諸島、カロリン諸島をさす」(『日本大百科全書〈ニッポニカ〉』小学館刊 項目執筆者 大島襄二)で、「1914年(大正3)日本海軍がマーシャル諸島ヤルート島のドイツ海軍を攻略して以後全域を占領し、講和条約締結後、国際連盟から統治を委任されて南洋諸島委任統治領となった。面積2136平方キロメートル、1932年当時の総人口7万5909であった。パラオ諸島のコロール島に南洋庁を置き、パラオ、ヤップ、トラック(チューク)、ポナペ、ヤルート、サイパンの6支庁を置いて統治した」(引用前掲書)というものである。

 日本の統治の特徴は、以前述べたようにイギリスのインド統治などとはまったく異なり、学校を建てインフラを整備し、地元産業を育成し現地住民に近代化の恩恵を与えようというものだった。その反面、「日本人になってしまえ。そのほうが幸福になれる」という「押しつけがましさ」(キリスト教などにもこういう側面がある)があるもので、それでもこの方式は多くの地域で広く受け入れられたが、唯一「自分たちは日本人よりはるかに優れている」という朱子学的プライドを持つ朝鮮では大反発を招いたことは、『逆説の日本史 第二十七巻 明治終焉編』で詳しく述べたとおりだ。

 逆に、パラオなど南洋諸島ではこの日本方式が支持されたと言えるだろう。現在パラオは日本と大使を交換する独立した共和国だが、在パラオ日本大使館の公式ホームページの「二国間関係」という項目には次のような記述がある。

〈パラオは日本の南の隣国です。そして、日本とパラオは、国連など国際機関の場や捕鯨問題などで常に協調してきた親密な友好国です。そして、このような友好関係の基盤には、深い経済的な結びつきと、長い歴史的な絆があります。

 日本は、パラオの経済発展のために、独立以前から今日まで無償資金援助約276・297億円、技術協力78・88億円(2020年度までの累積)にのぼる開発協力を行ってきました。日本は、パラオの経済的繁栄のための重要なパートナーとなっています。

 日本とパラオには深い歴史的な繋がりがあります。第一次世界大戦後、日本はドイツから南洋群島を引き継ぎ、第二次世界大戦の終わりまで統治していました。この時代に、南洋庁が設置されたのがパラオのコロールです。南洋群島には、数万人の日本人が生活し、農業や漁業、養殖業などを営んでいました。このため、現在に至るまでパラオの言語や文化には日本の影響が見られます。また、終戦後も、独立時の大統領である故クニオ・ナカムラ氏など多数の日系人が活躍してきました。日本統治を経験した世代が高齢化する中、日本とパラオの文化的な絆の維持は重要な課題となっています。〉

 いわばこれは外務省の公式見解であるから、一種の宣伝文書のようなもので日本にとって都合のよい誇張があるのではないか、と疑う向きもあるかもしれない。そういう「疑うセンス」は大切にしていただきたいが、この文書の場合は必要無い。パラオが台湾と並ぶ世界有数の親日国であるということは、世界の常識である。

 パラオはいわゆる島嶼国家だが、主要な島であるコロール島とバベルダオブ島との間に橋が無かったので一九七七年(昭和52)に建設された。ところが、この橋はわずか十年でたわみ始め、補強工事も行なわれたが一九九六年(平成8)、大音響とともに突然真っ二つに折れてしまった。初回工事を担当したゼネコンの手抜き工事が原因と見られ、パラオ政府のクニオ・ナカムラ大統領(当時)は非常事態宣言を発した。

 橋はバベルダオブ島からコロール島への電気・水道等のライフラインも兼ねていたからだ。ここで救援に立ち上がったのが、「深い歴史的な繋がり」のある日本政府だった。結局、日本の政府開発援助(ODA)資金で、鹿島建設によって橋は再建された。現在この橋は「日本・パラオ友好の橋」と呼ばれ、建設十周年を記念してパラオでは記念切手も発行された。

 現在の上皇ご夫妻も、パラオを二〇一五年(平成27)に直接訪問されている。その事情について、かつて「週刊ポスト」は次のように報じていた。

〈4月8~9日にかけて、天皇・皇后(当時。引用者註)の悲願だった「パラオ慰霊」が実現する。

 天皇はこれまでに硫黄島(94年)、サイパン(05年)などで「戦没者慰霊の旅」を続けてきたが、太平洋戦争屈指の激戦地であるパラオ訪問は10年前から検討されていたものの「受け入れ態勢が整わない」という理由で実現してこなかった。パラオのペリリュー島は、戦力に劣る日本軍が激しいゲリラ戦を展開したことから米軍内で「天皇の島」と呼ばれ、日米双方で約1万2000人が戦死。天皇は9日にペリリュー島に上陸し、両国兵士の慰霊碑に祈りを捧げる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

タイと国境を接し、特殊詐欺の拠点があるとされるカンボジア北西部ポイペト。カンボジア、ミャンマー、タイ国境地帯に特殊詐欺の拠点が複数、あるとみられている(時事通信フォト)
《カンボジアで拘束》特殊詐欺Gの首謀者「関東連合元メンバー」が実質オーナーを務めていた日本食レストランの実態「詐欺Gのスタッフ向けの弁当販売で経営…」の証言
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
まさか自分が特殊詐欺電話に騙されることになるとは(イメージ)
《劇場型の特殊詐欺で深刻な風評被害》実在の団体名を騙り「逮捕を50万円で救済」する手口 団体は「勝手に詐欺に名前を使われて」解散に追い込まれる
NEWSポストセブン
戸郷翔征の不調の原因は?(時事通信フォト)
巨人・戸郷翔征がまさかの二軍落ち、大乱調の原因はどこにあるのか?「大瀬良式カットボール習得」「投球テンポの変化」の影響を指摘する声も
週刊ポスト
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
沢尻エリカ、安達祐実、鈴木保奈美、そして広末涼子…いろいろなことがあっても、なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン