今年100周年を迎えている野音
ただ、2000年代に入ると、音楽シーンの移り変わりとともに、「野音の存在が変わってきた」と亀田さんは言う。
「特にここ10年くらいは、サブスクの登場などで音楽の聴き方が変わってきています。それと同時にコンサートのあり方も変化していると感じます。
以前は、日本青年館から野音、渋谷公会堂を経て日本武道館のステージに立つのが音楽の出世ルートでしたが、いまのアーティストの中にはホール会場やライブハウスから大きな会場でコンサートをして、野音を経ないケースがあるんです。
それももちろん一つのあり方ですが、野音の魅力を知っている人間からすると、もっともっとたくさんの人に知ってもらって、足を運んでほしい。そういう思いも込めて企画したのが『日比谷音楽祭』です」
日比谷音楽祭は2019年から毎年6月に開催されている野外音楽フェスティバル。これまでもMr.Childrenの桜井和寿(53才)や布袋寅泰(61才)、DREAMS COME TRUEなど、チケットの入手が困難なアーティストが、入場無料で多数参加し、大きな話題を呼んでいる。
「野音では目の前で演奏しているアーティストが見られます。時には雨に降られることもあリますが、そんなハプニングも全部が思い出になる。『日比谷音楽祭』を開催することで、一期一会のコンサート会場として、野音の魅力をこれからも繋げていきたいと思ったんです」
これから先も誰かの心の泉に
関東大震災、太平洋戦争と歴史的な危機を乗り越えてきた野音は、2020年、新型コロナウイルス感染症の流行で新たな危機に直面する。
予定されていた数々のイベントが中止される中、2021年にはアーティストたちが少しでもファンを元気づけたいと、野音で無観客ライブを行った。亀田さんもその一人だ。
「無観客でやった光景はいまも目に焼きついています。いつもはすぐそこにお客さんがいるのに、いない。その寂しさはこれまでにはないものでした。
2022年、ようやく拍手のみでしたがコンサートが行えるようになり、今年は声出しもOKになり、本来の姿に戻ってきましたが、あの無観客の光景をいまだに思い出すんです。そのたびに、これから先も何があるかわからないけど、そんなときに野音が誰かの心の泉になってくれるといいですね」
野音は来年10月から3度目の建て替えに入る。生まれ変わったステージでどんな伝説が生まれるのか、楽しみだ。
(了)
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2023年9月28日号