プロフェッショナルである技術者、職人、生活必須職従事者(いわゆるエッセンシャルワーカー)といった専門職の現場を蔑ろにし、見て見ぬふりで来た日本。その中でもバスの運転士は本当に足りない、というか多くの人手不足の現場同様、なり手どころかバス運転士自体が他の仕事についたり、それなりの年齢になりバスを降りたりしている。
「当然だよ。とくに路線バスはだめだ。給料は安いし重労働、四六時中神経使って不特定多数のお客を乗せて走る。大人から子ども、障害のある人の対応まで運転士がワンマンでこなす。それで息子や娘のアルバイト代より月の手取りが安かったりする」
収入や待遇は会社や地域にもよるが、営業用バスの運転士の年収は平均400万円台とされる(厚生労働省)。残業代も含めた労働時間は200時間超え、路線バスに限らずすべての営業用バスが対象の調査とはいえ、これではいくらなんでもなり手がいない。とくに若い子は目指さない。ましてバスが好きでも20代でバスの運転士になって30年、40年続けるかと言えば厳しい現実がある。
現在は高齢のため引退した別のバス運転士の話。
「時給換算で700円とか最低賃金を下回ることもある。そんな仕事、命の責任まで背負わされて、誰がするかね。私のような年寄りだけでなく、若者も途中で辞める。食っていけないってね」
少子化と人口減の昨今、いまの若い子たちはいくらでも働く場所がある。筆者が別の機会に聞いた地方のバス運転士の話では年間休日100日前後、拘束16時間で年収300万円台だと話していた。バスの労働問題は特殊で、勤務シフト次第で運転士は12連勤とか、13連勤が可能である。もちろん法律違反ではない。仕事自体は大切な仕事、魅力のある仕事なのは重々承知だが、この待遇でこれだけの能力と労力を要する仕事、なろうと思う若者が少ないのは無理もない。中高年がいろいろあって「路線バスの運転士でもやるか」と思っても、健康面含め適性は限られる。
「大型二種で実際に仕事をすると言っても営業に出せるかといえば、全員がそうはならない。向き不向きはあるし、普通に考えれば多数のお客様を乗せて走る、って誰でも明日からできる仕事じゃないよね、路線バスなんてコンビニの店員と同じくらいなんでもやらなきゃいけない。会社にもよるけど、ビニール傘や記念グッズだって売る」
確かに路線バスの運転士、一人でなんでもこなしているように思う。まさにワンマンというか、コンビニになぞらえるならワンオペというか。
「金剛バスだってそうだろ、あの辺は旅行で走ったことあるけど、バスで走るとなれば相当な技術がいると思う」
かつて、金剛バスは富田林にある大阪芸術大学の学生(大芸生)の足でもあった。その名も「芸バス」と呼ばれ、同大出身者である島本和彦の漫画でドラマ化もされた『アオイホノオ』にも登場する。