後ろ乗りの路線バス(イメージ、時事通信フォト)

後ろ乗りの路線バス(イメージ、時事通信フォト)

 いまはMK観光バスが「芸バス」を運行しているが、時間帯や目的によってはいまも大芸生が利用している。1990年代に大芸生だった女性の話。

「金剛バス、懐かしいですね。私のころの芸バスは金剛バスでした。大芸は喜志駅から遠いですから、歩くと30分とか40分とか掛かります。それに山ですから道も険しくて、金剛バスの運転士さんは曲芸みたいにバスを操っていました。大芸生は芸バスがありますけど、金剛バスが廃止になったらあの周辺の方々は大変でしょうね。免許返納したご高齢の方とか」

 あの地域は車社会とはいえ、路線バスが消えるということは生きる手段がひとつ無くなるに等しい。各地の路線バスはこれまでも減便や廃止が続いてきた。人手不足はもちろん燃料価格の高騰もある。当たり前の話だが、1台数千万するバスの買い替えもある。実際、金剛バスの廃業理由は乗務員不足とバスの老朽化もあった。

 それにしてもバスの運転士、本当に凄いと筆者も子どものころから思っていた。いまでも例えば、吉祥寺駅南口周辺などエスパーかニュータープかと思うほどにバスは狭い道を、人通りまみれの中を縫って走る。バスに逆走する自転車や平気で飛び出す歩行者といった一人ひとりを察知する。

 それでも、冒頭の元バス運転士は「バスが好きな人には悪いが、やめておいたほうがいい」とまで話す。「バスは好きだが、運転の仕事なら他にいくらでもある」とも。

「若い人は他にいくらでも働き口はあるだろう。低賃金、長時間拘束、年をとれば健康面でも仕事を続けられなくなる。続けたくとも続かないのも現実だ」

 この「バス(運転士)はやめとけ」は以前からネットの一部でもたびたび取り上げられてきたキーワードである。悲しい話だが経験者だからこそ、バスの運転士だからこそ「やめとけ」なのか。

「バスは好きだ。私も誇りはあったしいまもある。でも続けたくても乗れなくなる。私もその口だ」

 彼らのようなベテランが次々と消え、いよいよ地方路線を中心にバスの減便や路線そのものの廃止が続く日本、「本名を覚えられて嫌がらせ」は現在も心ない客によってSNSや匿名掲示板で繰り返されている。ようやく8月1日からバスも「乗務員の氏名掲示義務」が廃止となったが、名前がわからなくてもスマホの動画や写真で晒す行為はいまでもSNSや動画投稿サイトを中心に散見される。

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