1965年、東京・新宿区、高田馬場駅前のバス停(イメージ、時事通信フォト)

1965年、東京・新宿区、高田馬場駅前のバス停(イメージ、時事通信フォト)

 トリガー条項も発動されず、二重課税のままに高止まりの燃料価格はもちろん、肝心の運転士がいない。足りないでなく、あと数年で本当にバスの運転士が各地でいなくなる。そうなれば金剛バスのように廃業となる。

 国土交通省は外国人の在留資格の特定技能に自動車運送業を追加することを検討しているが、「外国人に大型二種をとらせて日本で路線バス」、長期的な計画なのかもしれないが、異国の労働環境と低賃金、かつ世界有数の「おもてなし」を求める日本人客相手に、どこの国の「日本の路線バスの仕事をこなすスーパー外国人」が来てくれるというのだろう。せめて待遇改善が先のように思うのだが。

 私たちの日常は当たり前のように続き、そうした日常を支える人は無限に現れるように錯覚してきたように思う。私たちは少子化だけでなく人口減、高齢社会に伴う労働人口減という、この国で初めて遭遇する危機の入り口にある。金剛バスの路線は一部で近鉄バスおよび南海バスが引き継ぐ方向で国や大阪府を交えて話し合いを予定しているとのことだが、安定しているとされる電鉄系の近鉄や南海すら運転士不足には変わりがなく、先々に改めての減便および路線の廃止は時間の問題のように思う。

 冒頭の元運転士は解決策として「まあ、無理だろうけど」という前提で苦笑ぎみにこう話してくれた。

「バスは公営に戻すしかないと思う。昔から公営バスは運転士の間でもマシな働き口だった。いまでもそれなりの倍率はあるだろう。昔はよかったと言いたくはないが、よかったのは事実だ」

 前出、もう一人の引退された元運転士も同様の意見。

「路線バスは自治体丸抱えしかないよ。民間で路線バスなんて、いずれどこも維持できなくなる。私はもう先は短いが、この国の人たちはどうするんだろうね」

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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