司法の場で裁かれたいじめ問題
うら若き彼女が極端な選択をすることになった背景の1つには、8か月前の報道があったとみられている。『週刊文春』(2023年2月9日号)は、宙組所属の娘役・天彩峰里が、ヘアアイロンを押し当てて後輩の額をやけどさせたなどの「いじめ疑惑」を報じた。
「記事中では被害者は“Aさん”と匿名になっていましたが、それまでの公演の役どころなどから、“Aさん”が有愛さんだということは容易にわかる書き方でした」(別の宝塚関係者)
内容は苛烈の一言だ。
《額にじゅくじゅくと水膨れになるほどのヤケドを負い、長い間、ミミズ腫れのような傷が残ってしまった》
記事にはそう記述されていた。
「当初、歌劇団は《全くの事実無根》と否定しました。宝塚内部でも“ヘアアイロンではなくて、小さくて温度の低いホットビューラーだった”、“やけどではなく、まつげが少し焦げただけ”などといった話として伝わっていて、大半が“どこかで話が飛躍してしまった”と捉えていたようです」(前出・別の宝塚関係者)
有愛さんの死去直後に発売された『週刊文春』(2023年10月12日号)は、Aさんが有愛さんであったことを明かしたうえで、彼女を自殺に追い込んだのは、歌劇団内にはびこる壮絶ないじめが原因だったと伝えた。また、2月の報道直後から始まった、執拗な“犯人捜し”に有愛さんは苦しめられていたという。
「有愛さんは“やけど事件”があった当初から、“大ごとにはしたくない”と学校側に被害を訴え出ることさえしていませんでした。ところが記事が出たことで、周囲から、被害者である有愛さんが“週刊誌にリークした犯人”という目でみられることで、さらに深刻に悩んでしまったようです。
しかも、宝塚内部では“やけど事件は話が飛躍している”と捉えていた人も少なくなかったので、わざと大げさにリークしたのではないのか、という疑いの目まで向けられることになってしまった」(前出・別の宝塚関係者)
有愛さんが亡くなった後の会見で歌劇団の理事長が、“故意ではないが当たったことはあると聞いている”という旨の発言をし、「やけど事件」が実際にあったことは認めたものの、そのやけどの程度がどれほどのものだったか、故意だったのかどうかは、いまでもはっきりしない。
『週刊文春』には有愛さんの自死後、宙組内の有愛さんに対するいじめを告発する声が十数人から寄せられたという。そうしたいじめを有愛さんが苦にした可能性は充分あるが、さらに有愛さんを追い詰める出来事が起きていた。
「有愛さんが亡くなったのは、新トップ娘役の春乃さくらの宝塚大劇場でのお披露目公演初日の翌日でした。
実は、その公演でお披露目されるトップ娘の最有力候補は、天彩さんだったんです。ところがフタを開けてみれば、娘役に抜擢されたのは春乃さん。天彩さんは8か月前の“やけど事件”報道で、ヘアアイロンを押しつけたと報じられた当人だったので、周囲の多くが“だから選ばれなかったのでは”と理解しました。そればかりか、この9月には、12月25日付での天彩さんの月組への組替えが発表されました。
この人事には多くの関係者が動揺しました。特に有愛さんは、天彩さんがトップ娘役に就任できなかったのは“いじめ報道”が原因だったのではないかと、ずっと自分を責めていたんです」(前出・別の宝塚関係者)
そして、春乃のお披露目のステージが始まった翌日、有愛さんはこの世を去った。かねて宝塚に「いじめ問題」が根深く燻っていたのは間違いない。音楽学校を首席で卒業した小柳ルミ子(71才)は、「“いじめ”というフレーズは、そのまま、宝塚音楽学校時代の思い出なんです」と、インタビューで明かしたことがある。
「1999年に月組のトップ娘役に抜擢された檀れいさん(52才)は、結果的に先輩のトップ娘役候補を追い落とした形になり、月組の中で孤立し、誰からも食事に誘われなくなったそうです」(宝塚OG)
「いじめ問題」が司法の場で裁かれたこともあった。音楽学校の第96期生のXさんが2009年、学校を相手取って裁判を起こした騒動だ。2008年4月に入学したXさんは、そのわずか半年後に万引き行為などを理由に退学を通告された。事実無根として退学の取り消しを申し立て、平行線を辿った議論が法廷に移って明らかになったのが、数々のいじめだった。
「Xさんの洗濯物がゴミ箱に捨てられていたり、学校内や寮での窃盗疑惑をかけられ、“死ねばいいのに”と罵詈雑言を浴びせられるなどの行為があったとされました。そればかりか、退学処分の直接の原因となった万引き行為さえも、同級生がデッチあげた、嘘の密告だったのです」(芸能関係者)
もはや、「いじめ」という言葉では言い足りないほどだ。
《(音楽学校の1年生で)1番美人なのはXさん》
驚くべきことに、きっかけはインターネット上のそんな些細な投稿だったという。
「舞台に立つ以上は、お客さまに最高のステージをお届けする。そんな大義名分のために、“どんな苦難にもみんなで立ち向かわないといけない”と思い込もうとするんです。ただ、そのせいで厳しい言葉や乱暴な物言いになることは日常茶飯事です。見方によっては、パワハラ、いじめ、集団リンチと受け取れるようなこともあります」(前出・宝塚OG)