事件の告訴調書改ざんで陳謝する埼玉県警(時事通信フォト)
犯人とのすべてを言い遺して死んでいく被害者など今まで聞いたこともなかったが、彼らの話はひとまず信用して良いのではないかと思えた。事件と関わり合いになりたがらなかった詩織さんの友人達の中で、彼らは危険を冒してまで話をしようとしてくれたのだ。
私は手真似で藤本記者にメモ取りを頼んだ。聞き手に専念したかった。もともと私自身はあまりメモは取らない。テープレコーダーも使わない。氏名、住所、数字、センテンスなどの重要な部分のみペンを使う。集中して聞くこと、会話をすることが大切と信じているからだ。相手の話を聞き、表情を窺い、真偽を判断しながら同時に長大なメモを取るなどという神業は私には出来ない。しかしこの長い長いインタビューは、藤本記者のおかげで正確なメモが残されることになった。
「一体、Aっていうのは何者なんですか」
「それが分からないんです。何をしているのかも、どこにいるのかも。いや……」
島田さんは手帳を取り出した。私は訝しい思いでそれを見ていた。手帳を繰った島田さんは続けた。
「池袋の方に住んでいるみたいです。東口です。詩織もそこには行ったことがあるんですが、仕事すら分からないんです」
「失礼ですが……」
事件当事者ならともかく、手帳を取り出す取材相手なんて初めてだった。