血糖値に問題がなくとも薬をもらう人が…
糖尿病患者に薬が届かない
副作用に加えて懸念されるのは、日本においてGLP-1はあくまでも糖尿病治療薬として承認されており、肥満薬としては「未承認」であること。そのためダイエットに使うことに懐疑的な声を上げる人は少なくない。
同時に、2型糖尿病患者に投与されるGLP-1が自由診療を中心にダイエット目的で処方された結果、品薄になっていることも社会問題になっている。10月25日には日本医師会が「ダイエット目的での使用は控えてほしい」と呼びかける事態となった。
長年、糖尿病の治療を続ける都内在住の女性Kさん(62才)がこう嘆く。
「夏くらいからでしょうか。いつものように大学病院で処方箋をもらい、注射タイプのGLP-1を受け取ろうと薬局を数箇所回ったのですが、手に入れられなかった。やむを得ず再度病院へ行き、別ののみ薬に変えることになりました。医師は“別の薬でも血糖値を下げられますよ”と言うのですが、使い勝手も変わったので、少し不安な気持ちのままずっと使っています」
谷本さんが説明する。
「もし、糖尿病患者が薬を使わず血糖値が下がらなければ『神経障害』『網膜症』『腎障害』などさまざま合併症を起こし、失明や手足の感覚の喪失など深刻な症状が出たり最悪、死に至ることがあります」
日本でも正式に肥満薬として承認
そうした背景もあり、SNS上で「ダイエットにGLP-1を使った」と公言した人たちが、「糖尿病患者を殺す気か」と激しい非難を浴びせられることとなり、冒頭で紹介した山内の動画も炎上の後に削除された。
また、クリニックでも「抱き合わせ商法」や「健康をないがしろにする療法」を提案するところもあり、注意が必要である。
「GLP-1ダイエットを受けたいとクリニックに行ったら、“品薄です”と言われ、別のよくわからない痩身治療を提案される場合があります。効果がない薬や治療を受けて高額な料金を取られたり、脂肪吸引のような体への負担が大きい治療をすすめられることもある。ぼったくりをする美容クリニックも多いので、気をつけてください」(室井さん)
正しい知識を持たず、医師の言いなりになるのはリスクでしかないのだ。
「クリニックによっては、GLP-1以外の糖尿病薬を提供している施設もありますが、実際にダイエット効果のエビデンスがあるのはGLP-1だけ。従来の糖尿病薬をダイエット目的で使用するのは、低血糖などの副作用が強く出るため注意が必要です」(村山さん)
賛否両論が巻き起こるGLP-1ダイエットだが、アメリカでは2021年6月にGLP-1の「セマグルチド」が肥満薬として認可されている。また近いうちに「マンジャロ」も承認される見通しだ。
「日本でも、今年3月にGLP-1の『ウゴービ』が肥満薬として承認されました(未発売)。このウゴービはリベルサスと同じ成分です。つまり、医師が責任をもって用法や用量などを指導し、適応患者に正しく使えばリベルサスも“やせ薬”であるのは間違いないです。
病的にやせている人が使用するのは非常に危ないですが、肥満は立派な生活習慣病で、心臓への負担や睡眠時無呼吸症候群などの健康リスクがあります。ただやみくもに自由診療を非難するのではなく、今後は肥満を改善した方がいい人を治療の対象に含めることも検討課題でしょう」(谷本さん)
人類の夢である安全な「やせ薬」が、現実に処方される日も近いかもしれない。
※女性セブン2023年11月16日号
「GLP-1ダイエット」のメカニズム
「GLP-1ダイエット」の主な副作用
7月28日、厚生労働省は医療機関などに対し、GLP-1受容体作動薬に対する適正使用などの協力要請を行った