増税を巡り批判を受けている岸田首相(写真/JMPA)
木村氏を押し上げるのに熱を入れ過ぎたせいか、5期連続区当選を果たしてきたI氏は、区長選と同日に行われた区議選で自らの議席を失った。逆にいえば、それだけ熱心に木村氏を支援していたともいえる。
今回報じられた新疑惑は柿沢氏の秘書が江東区議にカネを渡そうとしたという内容だが、この点について取材すると、その行動の趣旨について柿沢氏は辞任後、周囲に「(区議選の)陣中見舞い。選挙買収の趣旨ではない」と語っていた。区議選候補者への寄附で、選挙違反にはあたらないという主張だ。関係者によれば、柿沢氏は次のように説明したという。
「自分の選挙で力を借りる(自民党の)区議たちに『区議選では皆さんを応援しないスタンスではない』というつもりで(お金を)渡した。渡した人からは領収証ももらっている。
(買収という話が出ているのは)13人の区議候補のうち受け取った人と拒否した人が半々で、その双方に木村派も山崎派もいた。受け取らなかった誰かが、陣中見舞いを持ちかけたことを“買収を持ちかけられた”という嘘のストーリーにして、特捜部に供述しているのではないか」
言わば“敵方”の区議のでっち上げた話に特捜部が飛びついた、という主張である。この点を確認するため、柿沢氏本人に電話したが「今は個別の取材には応じられない」と言うのみだった。東京地検は一大スキャンダルの尻尾を掴んだのか、ローカルな喧嘩に振り回されたのか。いずれにしても捜査の進展に注目が集まる。
取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)
※週刊ポスト2023年11月17・24日号