1985年、日本一に輝きナインから胴上げされる阪神の吉田義男監督(中央)(時事通信フォト)
試合に勝利した時は、それでも柔らかく、にこやかな表情を見ることもあった。だからといって、リーグ優勝までの試合中、監督の目から鋭さが消えることはなかったように思う。そんな監督がまとめてきたチームがついに日本一になった。祝勝会の前に行われた会見では、「もう1度ね、日本一という、あの、正直なとこね、オリックス3連覇しているチームなんで、こりゃもうやばいていうか、正直、相当つよいっていう」とコメント。しかし5日の深夜放送、MBS毎日放送での阪神日本一特番『59年ぶりの関西ダービー 阪神アレのアレしたよん 38ねんぶりの日本一やねん』では、「正直言って、いい試合をしようと。まぁ正直勝てると思ってなかったですね」と振り返った。監督のいう”アレ”は優勝のことだ。
勝負は水もの、時の運という表現があるが、いざ本番となると何が起こるかわからない。だからといって、最初から無理だ、勝てないと決めつけてしまえば、勝ち取るのは難しい。それは心理学でいう「自己成就予言」という現象があるからだ。根拠がない思い込みでも、思い込んでいるうちにそうなってしまうことがある、自分がこうなるのではないかと思って行動していると実際にそのようになる、という現象のことを指す。勝てると思っていなかったという監督だが、それは決して口には出さず、「自己成就予言」となることを避けたのだろう。
チームが一つになって勝ち取った”アレ”にファンも歓喜の声をあげた。38年は長い。時代は昭和から平成を飛び越え令和になった。1985年の日本シリーズ初優勝の時には、選手として弾けるような笑顔を見せていた岡田監督は、深いシワが刻まれた顔をほころばせながら宙を舞っていた。