各地でクマ被害が多発するなか、駆除を行なった自治体に抗議が殺到している。対応する職員への罵詈雑言にとどまらず、ある役場には町長襲撃を匂わせる物騒な電話も寄せられた。それにしても、なぜこれほどまでに論争はエスカレートしたのか。
秋田県美郷町の畳店作業小屋に、親子のツキノワグマ3頭が居座っているのが発見されたのは10月4日朝。取り逃がせば重大な人身事故に繋がる可能性もあり、町内一帯は緊張に包まれた。
翌5日、人に被害を出すことなく3頭は捕獲され、県の管理計画に基づき駆除された。だが、騒動は思わぬ方向に拡大。捕獲・駆除の報道後、美郷町役場に電話とメールが殺到したのだ。
「捕獲当日は総務課が把握するだけで約320件の電話があり、通常業務ができない状態でした」(同町総務課)
当初は「逃がしてほしい」「子グマの駆除はかわいそう」との意見が大半を占めたが、駆除後は「人でなし」「地獄に堕ちろ!」などと役場の職員らを攻撃する過激な内容に変わっていったという。
「感情的に怒鳴ったり、泣き出したりする方もいました。町長への危害を仄めかす物騒な内容もあり『そうした話なら、われわれも警察に相談します』と対応せざるを得ませんでした」(同前)
役場に寄せられたクレームの電話、メールはこれまで総計1200件近くに上っているという。
「私が受けた100件近い電話のほとんどが匿名でしたが、居住地を尋ねると、秋田県外の方が圧倒的多数でした。声や口調から年配の方が多かった印象です」(同前)
同様の抗議は秋田県庁にも寄せられた。電話で応対した職員が「クマを殺すならお前も死ね」「税金で食っている無能ども」と暴言を浴びせられることもあったという。
同庁自然保護課の話。
「美郷町での駆除の翌日から数日間、担当部署の電話は鳴りっ放しでした。“生かしておくべきだった”との意見が多く、なかには乱暴な言葉で職員を非難したり、長時間にわたり一方的に意見をまくし立てる方もいました。
人里に出てきたクマの危険性や、県の取り組み内容、方針を説明しても、聞く耳を持っていただけず、対応が困難でした」