2022年は紅白歌合戦の司会だった大泉洋、2023年は歌手として初出場する(時事通信フォト)
紅白では、ドラマやテレビアニメの主題歌や挿入歌、CMソングとして聞いたことがあるという曲もある。以前は、そんな聞きなれた曲や小耳にはさんだ曲を、こんな歌手が歌っているのだと紅白を見て思ったものだ。あちこちで流れていたワンフレーズや印象に残っていたサビが、実はフルで聞くとこんな曲だったのかと新しい発見もした。よく知る歌手や好きなグループを見るだけでなく、そんな小さな発見も紅白の楽しみの1つだった。だがそんな楽しみも、まったく知らない歌手やグループには見つけられない。
実はこの”これ、聞いたことがある””サビだけは知っている”というのは、人に好奇心を沸かせるための重要なポイントだ。人はそもそも、まったく知らない物事には反応しない。興味や関心のあるものや知っている人、経験したことのある物事などに対して反応しやすい。「情報の空白」という説によると、このような人間の反応から、まったく知らないと興味も湧かないが、ほんの少し知っている物事に空白の部分があるとわかると、好奇心が動かされるという。逆によく知っている物事に対しても興味が薄れてしまうらしい。
この説でいくと、知らない歌手やグループが多くなっていくシニアに、紅白に興味を持たせるのは難しい。テレビ離れが進み、自分の好きな歌手や推しのグループばかりを聞く若者層は、出し物が入り、他の歌手の歌が続く番組構成に興味が湧かず、紅白を見なくても録画で十分という気になるのだろう。
紅白出場といえば昔は名誉なことで、歌いながら感極まって涙する歌手がいた。その年に活躍した歌手、売れた曲、流行った歌が紅白を見ればわかった。紅白にはそういう価値があったのだが、今は出場基準さえよくわからない。「昔の紅白が懐かしい」というシニア世代と、「紅白には興味がない」という若者世代。彼らの情報の空白をどう埋めるかが、視聴率のアップへの課題かもしれない。