「ホルモン補充療法」のメリットとは
運動以外では、男性ホルモンの分泌を促すために「肉」を食べることも一つです。肉類に含まれるアミノ酸の一種・カルニチンには男性ホルモンであるテストステロンを増やす働きがあるとされます。なかでもラムやマトンといった羊肉にはカルニチンが多く含まれているのでお勧めです。羊肉に次いで多く含まれているのが牛肉です。
一方、大豆などの植物性タンパク質では男性ホルモンは増えません。というのも、肉類に含まれる脂質の一種であるコレステロールが、テストステロンの材料となるからです。
運動と食事のほかにもできることがあります。それは、意識的に性欲を高めること。そもそも男性ホルモンは、大脳の中枢に作用して性欲をコントロールしています。それが減少すると性欲が衰え、勃起障害(ED)にもつながります。
男性ホルモンを維持・増強しようと性欲を高めるには、前頭葉や男性ホルモンを刺激するような「脳の使い方」をすることが手っ取り早い解決法と言えるかもしれません。
実際に恋愛感情を持つ相手と接するのが一番ですが、それが奥さん以外の相手だとトラブルにつながりかねません。1人でアダルト動画を見たり、空想や妄想をするだけでも大脳が刺激されて男性ホルモンが活性化するはずです。
血液検査で自身の男性ホルモンの値を確認したうえで、「男性ホルモン補充療法」を受けることも選択肢の一つです。特に、忙しくて運動する時間が取れない場合や、肉類の摂取が難しい場合は、即効性と効果の高さから、お勧めと言えます。
更年期障害に苦しむ女性の治療法として女性のホルモン補充療法は普及しつつありますが、日本では男性のホルモン補充療法はまだ理解が進んでいません。ある種のドーピングのように捉えて否定的な見解を示す人も一部にはいるようです。しかし、特に高齢者の場合は、意欲も高めて元気にしてくれる点でメリットが大きいのです。
60代の私自身、運動は歩くことだけですが、若々しさを保つためにホルモン補充療法は受けています。まだ50代の人でも、スポーツジムに通うような感覚で、体力増強、元気回復のための選択肢の一つとして男性ホルモン補充療法を捉えてもいいのではないでしょうか。
男性特有の性欲減退、勃起力の回復にも男性ホルモン補充療法は効果的です。ただし、男性ホルモンは前立腺がんのある人はがんを大きくしてしまうリスクがあるため、処方してもらう際はあらかじめ検査しておくことが大切です。(了)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。