ヒグマは用心深く、とても臆病な生きものだと思ってきた。

 実は、銃を持って山を歩くと、彼らの痕跡を至る所に見かける。彼らは人間が思っている以上に、我々のそばにいる。点々と続く足跡。一目でヒグマのものと分かる太いフン。中には湯気が出ていそうなものに出くわすこともある。

 しかし狩猟を始めて5年目まで、いくら山を歩いても、猟場でヒグマそのものに出会ったことはなかった。

黒田氏は一人で山に分け入って猟をしている 撮影:大川原敬明

黒田氏は一人で山に分け入って猟をしている(撮影:大川原敬明)

畏るべき賢者「キムンカムイ(山の神)」

 北海道のヒグマの推定生息数は1万頭ほど。対してエゾシカは70万頭と言われる。エゾシカは毎日のように、時に1日100頭以上を目撃することもある。生息数の比率だけを見れば、エゾシカを100頭見れば、ヒグマを1頭くらい見てもいいはずだ。しかしそうした数字だけの計算と、現実の遭遇率は全く異なる。それだけヒグマは人目を避ける生きものということだ。

 人間の存在を察知する鋭敏な嗅覚。藪に身を潜めて何時間でも動かない忍耐力。ガサガサと大きな音を立てながら落ち葉を踏む二足歩行の不器用な私たちを、すぐ近くに隠れてじっと観察し、足音を立てずに消えてゆく。

 不気味な獣という見方もあろうが、私にとっては、人間を簡単に殺傷する能力を持ちながら、無益な戦いは絶対にしないという賢者。アイヌの人々が「キムンカムイ」(山の神)と呼び、畏れ敬ってきた存在そのものだ。

 かと言って、ヒグマが全く人間を襲わないわけではない。身を守るためには、彼らは敵を排除する。

 例えば山菜採りなどで山に入った人間と、あまりに近くで鉢合わせした時など、驚いてパニックになったヒグマが、人間を強大な前脚ではたいても不思議ではない。特に子供を守ろうとする母グマは危険だ。

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