大千軒岳ヒグマ襲撃事件の衝撃

 このように、ヒグマが人間を殺傷するのは自分たちを守るためであり、積極的に襲うような生きものではない──というのが、クマの観察や熊猟を通じて私が培ってきた肌感覚だ。

 ところが2023年、今まで私が培ってきたヒグマの概念からは、想像できない行動をとるものが出てきた。10月31日、北海道南部の大千軒岳(だいせんげんだけ)で3歳の雄グマが登山中の消防署員3名に襲いかかったのだ。

 そのクマは、勇敢な署員が首に突き立てたナイフの傷が元で命を落としたが、胃の中からは10月29日に同山に登ったまま行方不明となっていた大学生のDNAが検出された。専門家による調査の結果、クマはまず大学生を襲って食べ、その後、消防署員を襲ったと考えられるという。つまりは、積極的に人間を襲うヒグマだった可能性が高い。

 やむを得ない事態が発生しない限り、ヒグマが人間を襲うことはないと信じてきた私は大きな衝撃を受けた。一体ヒグマに何が起きているのか。ヒグマの性格が変わってしまったのか。或いは別の要因により、追い詰められているのだろうか。

第2回に続く

【プロフィール】
黒田未来雄(くろだ・みきお)/1972年、東京生まれ。東京外国語大学卒。1994年、三菱商事に入社。1999年、NHKに転職。ディレクターとして「ダーウィンが来た!」などの自然番組を制作。北米先住民の世界観に魅了され、現地に通う中で狩猟体験を重ねる。2016年、北海道への転勤をきっかけに自らも狩猟を始める。2023年に早期退職。狩猟体験、講演会や授業、執筆などを通じ、狩猟採集生活の魅力を伝えている。著書に、『獲る 食べる 生きる 狩猟と先住民から学ぶ“いのち”の巡り』(小学館)。

獲る 食べる 生きる: 狩猟と先住民から学ぶ”いのち”の巡り

黒田未来雄著『獲る 食べる 生きる: 狩猟と先住民から学ぶ”いのち”の巡り』
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