山口裕己医師
ただし、いかなる場合でもステントグラフトを使えるわけではない。例えば脳や腎臓へ枝分かれする重要な血管などの近くは、ステントグラフトを入れると血流を止めてしまう恐れがある。また、長期成績については不明なため、若くて元気な人ほど開胸開腹手術をすすめるケースが多いという。緑川医師が続ける。
「ステントグラフトは医師側に高度な技術が必要です。治療中に万が一、やり直しや合併症が起こった場合には、すぐに胸部や腹部を開いて対処できる体制も求められる。ですから、ステントグラフトも人工血管も両方できるスタッフが揃っていて、かつ両方の症例数が多い施設を選ぶことも重要だと思います」
なお、腹部大動脈瘤は破裂する前に見つければ99%救うことができるが、破裂するとおよそ半分しか救命できない。大動脈瘤の患者の多くが、生活習慣病を持っている。65才以上の喫煙者で、高血圧、脂質異常症、糖尿病のある人は、1年に1度は大動脈瘤も意識してCTを撮ってほしいというのが緑川医師の見解だ。
では、いざ治療を受けるにあたって、どのような病院を選べばいいだろう。とりわけ心臓・大血管治療の“最後の砦”とも言える外科手術を受ける際は、慎重かつ迅速に病院を決めたいところだ。
一般的に外科手術は、症例数が多いほど経験が蓄積し、技術も向上するので、成績がよくなるといわれている。特に心臓血管外科は、年間200例以上がいい病院選びの目安といわれてきたが、実際のところはどうだろうか。昭和大学江東豊洲病院循環器センター長で心臓血管外科長・教授の山口裕己医師が話す。
「手術症例数と成績との相関関係は確実にあります。スポーツと一緒で、月に1回しかゴルフに行かない人と、毎日練習する人と、どちらが上手になるかと言えば、答えは明らかですよね。
ただし、数が多いからいいとも限りません。より経験や高度な技量を必要とする自己弁を形成する手術を行っても、人工弁を用いて自己弁を置換しても数的には1例は1例です。また、近年は心臓外科でもロボット手術や小切開手術が発達し、そうした最新の技術を用いた治療を受けたいという患者さんがいますが、それが常に正解とも限りません。
やはり、その人の病状に合った、安全で最善の手術法を選ぶべきなんです。ですから私は、症例数や手術法以上に、『誰が手術するか』がいちばん大切だと思うのです」