便器に歯ブラシを落として子どもが「大ピンチ!」と
タイトルは即決したが、内容に関してはすぐに決まらなかった。子どもにとって大ピンチは日々起こることで、それをどう乗り越えるか。ノーベル賞の発見も失敗から生まれた、というような、ためになるお話にすることも考えたが、図鑑編集の経験もある担当編集者から、「もっと図鑑に寄せたほうが面白いんじゃないですか」と言われて、今の形になっていったそうだ。
「たしかにぼくが携帯でメモを取り始めたときも、ケタケタ笑っていたので、その初期衝動に戻った感じがあります。『大ピンチ』を面白がって、教育的なカラーが前面に出てないのが結果的によかったと思います。『小学1年生の君たちには、統計上、こういうピンチが1年以内に訪れる確率が……』って学校で教えても、って話ですし、学ぶのっていうのは、自分で気づくタイミングが大事なんですよ」
大ピンチのレベルは最高値が100。なりやすさが5段階の星の数で示されるほか、読者が参加できるクイズ問題も用意されている。
昨年11月に出た『大ピンチずかん2』では、新たに「大ピンチグラフ」も導入された。
大ヒット作の第2弾を出すにあたって、「そのまま」でいく選択肢もあったが、鈴木さんの「作家魂」が新しい何かをさらに加えさせた。結果、「ドキドキ」「ふあん」など、ピンチのときに経験する感情が「グラフ」として目に見える形で表される。
「ネタは日々更新されているので、フォーマットはそのままでネタだけ新しくしてもいいんですけど、やっぱりちょっと変えたくて。子どもって好きなキャラクターを描くときに、このキャラは『魔法力が8で素早さは2』とか、書くじゃないですか。そういう引っかかりみたいなのを『ずかん2』には入れてみました」
鈴木家の子どもたちも「大ピンチ」という言葉をよく使うようになったそうだ。
「『こういう絵本をつくってる』と言ったら面白がって言うようになりましたね。トイレから『大ピンチ!』『来て!』って声がする。歯を磨きながらトイレに行って、便器に歯ブラシ落っことしたらしく、『どうやって取ろうか』『トイレに落ちた歯ブラシはなんで嫌なんだろう』って家族みんなで話し合ったりもして」
さまざまな「大ピンチ」を知ることで、子どもはピンチに直面したときあまり怖くなくなる。大人は大人で、子どもの頃の気持ちを久しぶりに思い出して、「大ピンチ」に陥ってあたふたしている子に、余裕を持って対応できそうだ。
「余裕って大事だと思っています。うちは子どもが3人いるけど、長女のときは、子どもってこんなに思い通りにならないものかと結構イライラしました。連れ(妻)とも話して、思い通りにならないのが普通なんじゃないかと、時間はかかったけど思うようになって。
長男次男のときは、こちら側が先に答えを出さず、待つ姿勢で接することができるようになりました。そういう自分の子育ての経験は、『大ピンチずかん』に生きている部分があると思います」