台湾随一のプログラマーが調査
「台湾は世界で最もディスインフォメーション工作に曝されている場所と言えます。例えば蔡英文のフェイスブックに寄せられるコメントの3つにひとつは、(中国の)世論工作アカウントとみられます」
国際的な情報操作を調査する、台湾AIラボ代表の杜奕瑾は言う。
彼はかつて台湾最大の掲示板「PTT」を設立。さらにマイクロソフトの音声認識ソフト「コルタナ」開発に参加するなど台湾随一のプログラマーとして知られる人物だ。
今回の総統選では、立候補締め切り直前の11月、国民党と民衆党による野党候補者一本化の動きが出た(結果は破談)。その過程で、SNSでは特殊な動きが観測されたという。
すなわち、当初は野党二党を応援して与党を攻撃していた工作アカウントは、野党候補の一本化が決まると様子見をするように沈黙。やがて両党が破局すると、途端に従来なかった民衆党攻撃を始め、国民党に投票を呼びかけたのだ。
ほかにも、米軍が台湾で生物兵器を開発している、能登半島地震への台湾救援隊の派遣は日本側から拒絶された、といったデマも流されている。杜奕瑾は言う。
「目的は世論の混乱。民主主義国家間の関係を悪化させ、民主主義への不信感を煽ることです」
主要国の“選挙イヤー”である今年は、中国にとっては世論工作ラッシュの年でもある。
矛先は台湾のみならず、やがては日本の衆院選やアメリカの大統領選にも向けられるはずだ。
【プロフィール】
安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。中国問題をメインテーマに執筆活動を行なう。2019年、『八九六四』で大宅賞、城山三郎賞をW受賞。近著に『戦狼中国の対日工作』。
※週刊ポスト2024年1月26日号