最大の魅力は、現代のテレビドラマにも通じる、細やかな心理描写
訳者と俳人と詩人で言語センスが珍しい
与謝野訳もあまり注釈を入れず、訳文だけで伝えようとしている。角田訳より原文に近く、谷崎訳と比べると構文、文章の順番はほぼ同じだが、単語は現代語に近いものに変え、谷崎訳より口語に近くなっている。瀬戸内訳は敬語の語り口を大事にしているのが特徴だ。原文は宮中に仕えていた女性が語っているという体で書かれているので、その雰囲気を大事にしているのだ。
原文との距離感という意味では「桁違いに離れている」のが、表のいちばん左にあるアーサー・ウェイリー訳だ。
「ウェイリー訳はあえて外国文学のように訳しています。日本語訳者の毬矢まりえさんは世界的に活躍される俳人、森山恵さんは詩人でイギリス文学の翻訳もしています。小説家の訳者が多い中でお二人は俳人と詩人なので、言語センスがぼくには珍しく、とても読みやすかった」
表には挙がっていないが、まだオススメはある。『フェミニスト紫式部の生活と意見〜現代用語で読み解く「源氏物語」〜』(集英社)などの著書がある小説家の奥山景布子さんが大絶賛するのが、小泉吉宏さんの『大摑源氏物語 まろ、ん?』(幻冬舎)だ。全54帖がそれぞれ8コマ漫画になっていて、装束の模様、人物の系図など、時代背景までわかりやすく説明されている。
「『まろ、ん?』を横に置いて『源氏物語』の現代語訳に挑戦するのが、初心者のかたにはおすすめです。現代語訳とはいえ昔といまでは常識が違い、わかりづらいこともあるかと思います。そんなときにページを開けば、漫画で絵として描かれていますからすぐに解決します。
実は、私が講師をしているカルチャーセンターの源氏物語の講座でも使っているんですよ」(奥山さん)
『まるわかり! これからはじめる源氏物語』(双葉社)の著者である小説家の島村洋子さんがすすめるのは、田辺聖子さんの『新源氏物語』(新潮文庫)だ。全文を忠実に訳しているわけではないが、初心者にも読みやすい。橋本治さんの『窯変 源氏物語』(中公文庫)は珍しく男性の視点から大胆に物語を作っていて面白いという。
渡辺さんはこう語る。
「自分に合うのはどれなのか、決めたら途中で気を散らさずに読んでみるといいと思います。どれを手に取っても長い物語ではありますが、光源氏が亡くなって以降が実はいちばん面白いという人もいますから、どうぞ最後まで読み通してみてください」