山下敦弘氏は『山田孝之』のほかにもフェイクドキュメンタリー作品を多数制作している
本人役を演じることの抵抗感と難しさ
山下敦弘は以前、谷村美月を主人公にしたフェイクドキュメンタリー『谷村美月17歳、京都着。 恋が色づくその前に』(2007年、関西テレビ)を演出している。編集は松江哲明。2人が仕事として初めて組んだ作品だ。
「谷村さんも、ちょっと芦田さんに近いかもしれない。本人役を演じることへの抵抗が大きかったんですよね。撮影の終盤、話を聞いていた時に泣いちゃったんですよ。それは想定外だった。彼女たちのように自分を演じることへの不安とか違和感がある役者さんも多いんですよ。作品自体は嘘とかホントとかどうでもいいみたいに終わるんですけど、谷村さんのいい表情がいっぱい撮れていましたね。いま、嘘ついてるなっていうのも含めて、かわいらしい。あの時は俺と脚本の向井康介とカメラマンの近藤龍人の3人で撮影してたんですけど、3人とも谷村さんが帰った後、失恋したみたいになっちゃって(笑)。素敵な3日間でしたね」(山下)
竹村は『赤羽』と『カンヌ』の間に、松岡茉優と伊藤沙莉主演で、やはり清野とおるの原作マンガをフェイクドキュメンタリー化した『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(2016年、テレビ東京)を制作している。
「フェイクドキュメンタリーを作るときって、山田孝之もそうですけど、やっぱり本人とたくさん喋るんですよ。やっぱり本人役である以上、全然違うキャラクターを演じられないんで。松岡さんは山田くんと違って何を考えているかわからないタイプではなくて考えすぎな人。全方位に悩むから面白い。その一方で山田くん同様、客観的に自分を見ている自分もいる。伊藤さんは劇中のキャラクターは、考え過ぎの松岡さんに対し、いいじゃん、そんなのっていうガサツなキャラなんですけど、実は気遣いの人。実際にもガサツを演じているだけだって後から気づくんですけど。あと稀代の人たらしですね。
僕はよく“フェイクの果汁”って言い方をするんですけど、ジュースの中にどれくらい果汁が入っているかみたいにフェイクの濃度は作品によって違う。それでいうと『おこだわり』がたぶん一番フェイクが強い。『赤羽』が一番少なくて、ドキュメンタリー要素が強い。ちょうどいいのが『カンヌ』。最初(フェイクの果汁を)少なくして、後半にめっちゃ多くして、最後にバランスを取った感じでしたね」