スポンサーやメーカー、芸能事務所の「意見が絶対」な映画界
主演の黒石高広と。黒石は格闘家でもある
吉田監督の地元、京都が主な舞台となった最新作の映画『SAVAGE―獲るのは誰だ?』。冒頭の北野の助言が力の源になり、脚本から配役に至るまで自分の意向で撮った初めての作品となった。
4億円の日本庭園を殺陣で血の海にするなど、吉田監督の“わがまま”が許されるロケ地を厳選。観光地とは異なる、地元らしいありのままの京都を映した。
「大阪と京都はまた違う。京都は人間関係が大事で、“一見さんごめんやす”の世界。そこで撮ることに値打ちがある。今はないですけど、行政の許可だけでは撮影できない地域が昔はあった。そこには必ず顔役の人たちがおって、その人たちから撮影許可を得るには挨拶回りがいる。今も撮る場所によりけりやけど、踏み込んであかん場所で撮影すると邪魔されるし、撮影していてもヤカラが来る(笑)。クラクションをずっと鳴らされて撮影できへんとか、止めに入っても『俺の勝手やろ』って嫌がらせされたりとか。京都はややこしいんです(笑)」
今作では黒石高大や阿部亮平、本宮泰風など、アウトロー役を演じれば適役の俳優陣を揃えた。昨年11月25日にはロームシアター京都で先行上映すると、昼夜2部で計1300人を集客、盛況のまま幕を閉じた。主演の黒石は『Breaking Down10』に出場した2日後、満身創痍で舞台挨拶に立っている。黒石が意気込みをこう語る。
「どんな良い作品でも見てもらえないと作る意味がないと思ってるんで、どうにか1人でも多くの人に見てもらいたいです。実はBreaking Down10の計量後の会見で映画の宣伝をしようと思ったんです。頭の中では映画の宣伝ばかりを考えてましたけど、まあ噛みまくりでした(笑)。減量で水抜きをすると意識が朦朧として上手く喋れないんです」
この規模の映画でありながら『SAVAGE』の配給先は未決定。クランクアップ後、試写会を開催しただけで現在も模索中である。海外からの“リターンバック”。いわゆる逆輸入も考慮しているともいう。
「いまの商業映画を取り巻く環境に凄く不満がある。商業映画ではスポンサーやメーカーの意見が絶対やから、ホンマに作りたい映画が出来へん。大手芸能事務所も一緒で、『こんな役をさせたらあかん。もっと(出演する場面を)盛ってくれ』とか、配役にも口を出してきて『こんな役者を使うな。もっと名前のある人を入れてくれ』と言われる。そうなってくると自分の作品じゃなくなる。
周りの仲間たちもそんな環境を知ってるから、それで『吉田監督のやりたい作品を1本作りましょうよ。みんなでお金を集めますから』と言われたのが約2年前。何の後ろ盾なしにスタートしたから、配給も販売元も決まってません。作品に力があったら何とかなると信じて……。日本のマーケットだけ見てるんと違って、海外で日本の素晴らしさを知らしめたい。世界にアピールしたい。日本の中でも京都はブランドです。そのために京都で撮っているし、神社仏閣、芸妓舞子、チャンバラからヤクザまでマストで入れている。その根底には、日本の美徳とされる精神文化をしっかり魅せたいです。ノワールの映画って、そういう世界を知らん人間が演出してもチグハグなんですよ。俺は幸か不幸か、周りがやんちゃな人が多かったからリアルを織り交ぜた」
海外の映画祭への出品も視野に入れているそうだ。大きな成果を期待したい。
(文中一部敬称略)
■取材・文/加藤慶