大江健三郎(前列左から2人目)の小説『静かな生活』は義兄である伊丹(前列一番左)が映画化した
判断基準は「伊丹さんが生きていたら?」
もうひとつの理由は、伊丹プロダクションが日本映画放送との縁を大事にしているからだという。同社は2022年に伊丹プロダクション全面協力のもと、全10作品の4Kデジタルリマスター化を実現。日本映画専門チャンネルで独占初放送するなど密接な関わりがある。玉置氏が語る。
「僕らは常に『伊丹さんが生きていたら?』を考えているんです。もし伊丹十三が生きていたら、どういう選択をするだろうか、が指針なんですね。このインタビューを受けるかどうかの判断もそうですよ(笑)。日本映画放送さんは、配信が普及する前から、すごく熱心に取り上げてくれていました。伊丹さんは1回信用するとどっぷりという人だったから、僕らもお付き合いを大事にしています」
一度、信頼した人にはとことん仕事を任せたのも伊丹の流儀。そんな仲間に囲まれた伊丹の姿の中で、玉置氏にはもっとも印象に残っている姿があるという。
「伊丹さんっていつもニコニコしながら喜んでいた気がしますね。僕は伊丹組のスタッフしか知りませんけど、彼らも間違いないなく伊丹さんの笑顔を見たい、伊丹さんが喜ぶ姿を見たいと思っていたはず。喜び方が上手というか素晴らしいんですよ(笑)。
僕がテレビの放映権の金額を交渉したときも、伊丹さんには結果を伝えるだけで『すごいね。シャンペン飲みましょう』と言ってくれるわけです。全部任せてくれて、本当に人使いも喜び方もうまい。一緒に仕事をしていて、嫌な思いは一度もしたことはないんです」
途中「ある意味で伊丹さんの掌の上だったかもしれませんね」と話していた玉置氏。いま、伊丹のような大きな掌を持った逸材はどこにいるのだろうか。
※文中敬称略
取材・文/奥富敏晴
撮影/塩原洋