2024年、警視庁が新たに作成した見立真一容疑者の似顔絵。現在の姿で、痩せている場合を想定した[警視庁提供](時事通信フォト)
高騰しつづけるカンボジアのワイロ相場
S氏の元にはカンボジアで騙されたという日本人も相談に来る。「カンボジア人もカンボジア在住の日本人も、詐欺のターゲットにするのは日本人。カンボジア人を騙しても持っている金は高が知れている。多いのは、騙す方も日本人、騙される方も日本人という事件ですね。騙されたと警察に訴えても、詐欺師が警察官に金を握らせておけば、被害者が逆に捕まることさえある」。
不動産に絡んだ投資詐欺も多いらしい。「カンボジアでは、外国人が土地を所有することを禁じています。土地を買うにはカンボジア国籍の人に便宜上、所有者になってもらうか、カンボジア資本中心の現地法人を作るか。だがどちらもリスキー。本当に信頼できるカンボジア人をパートナーにできればラッキーだが、任せる相手を間違うとあっという間に騙される」と話すS氏も、カンボジアで仕事を始めた10数年前、現地の人に騙された過去がある。
「中国資本がどんどん入り開発が進んでいた頃、投資にいいと郊外の土地を紹介され、プノンペンで知り合ったカンボジア人の友人に代理で購入してもらったんです。親切で誠実で、この人なら信頼できると思ったのに、連絡が取れなくなったと思ったら土地は売却、金は持ち逃げされていました。どこにいったかわからなければ、訴えることもできません」。不動産バブルが崩壊したまっただ中、プノンペンではマンションが余り、価格も下がっている。
S氏のように騙された日本人が泣き寝入りするだけでなく、”泣きっ面に蜂”のような状況に陥ることもあるらしい。「裁判官によっては判決も金次第。詐欺師も被害者も双方、裁判官にワイロを払う。詐欺師側が被害者より高いワイロを払うことができれば、判決がひっくり返ることさえある。例え権力があっても金がなければ、権力など役に立たない」とS氏はため息をついた。
「高い志を持って司法試験に合格しても、ワイロが準備できなければ弁護士になれない。ワイロを受け取る側はその人物が頭がキレるか、能力があるかは問題ではない。ひと昔前は3万ドルのワイロが必要だったが、今はそれが4万ドルと言われる」
金さえ払えば犯罪者でさえ自由が買えるというカンボジアだが、彼らがここに集まる理由は他にもあるとS氏はいう。
「不動産は余り気味だから、拠点を作るのは難しくない。タイやフィリピンほど日本人が多くないから、見つかりにくい。プノンペンにいる日本人は、在留届を出していない人を含めても5000人いない。カンボジア人は日本人が好きで、親日家が多く日本人には親切」
日本で彼らが何をしたかは関係ない。金を持っている犯罪者にとって、カンボジアは居心地のよい国なのだろう。