国内

「生きるために性を売るしかない人がいる」発達障害で“ふつう”に生きられない女性たちの“苦境”《困窮する女性の支援団体が見たリアル》

東京・新宿のネオン街

東京・新宿のネオン街

 ネオンが妖しく光る東京・新宿の歌舞伎町の一角にある公園。この周辺一帯では売春交渉が日常化している。好美さん(35、仮名)は、この街で性被害や困窮する女性の支援に取り組むNPO法人「ぱっぷす」(東京)のスタッフだ。

 好美さんは生きづらさを抱える女性の力になるべく日々活動をしているが、実は彼女自身も発達障害を抱えている。高校生のころ、自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症との診断を受けた。高校は退学し、10代後半から銀座でホステスとして働いていた。「女性が夜の街で働く理由はさまざまだ」と、好美さんはそう力強く訴える──。

 発達障害と診断された人たちの実体験や、彼彼女らを取り巻く社会に深く切り込み、日本の実像を炙り出した信濃毎日新聞社の連載「ふつうってなんですか?──発達障害と社会」をまとめた書籍『ルポ「ふつう」という檻』(岩波書店)より、一部抜粋して再構成。【全3回の第2回。第1回を読む】

頼れる場所があれば…

 2021年冬、1人の女性が公園近くにしゃがんでいた。薄着で、足元が震えているように見える。夜の街で数多くの女性と関わってきた好美さんの勘は鋭い。声をかけて話を聞くと、女性はホストクラブへの“つけ”の返済に追われ、ホストの男に夜の街に立つよう促されていた。

「あなたはまだホストに気持ちがあるの?」。好美さんが尋ねると、女性はスマートフォンのSNS(交流サイト)画面で男からのメッセージを映し出す。「結婚しよう」「愛してる」……。空々しい言葉を信じる女性を否定せず、1時間ほど話を聞いた。

 ホストに入れ込んだ挙げ句、経済的に困窮する女性は少なくない。預金口座の通帳をホストに奪われ、文字通り身ぐるみ剥がされて相談に来た女性もいた。この女性は発達障害の特性があり、「障害者手帳も返してもらえない」と言った。好美さんには人ごとに思えなかった。

 好美さんは長野市の小中学校を卒業。「空気が読めない生意気な子」だった。都内の高校に進学したが、女子の人間関係につまずき、インターネットの掲示板に「死ね」と書かれた。教室にいるのが怖くて転校を繰り返した。4校目の高校の通学途中で急に意識が遠のき、救急車で病院に運ばれた。

 病院で自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症と診断された。高校を退学し「生きる道があるのか?」と落ち込んだが、知り合いを通じて銀座のクラブを紹介され、ホステスに。10 代後半のことだ。

 店内をせわしなく動き接客するのは、じっとしているのが苦手な好美さんには苦ではなかった。年上の男性と臆せずに話す性格が客を引きつけ、高額な収入を得た時期もあった。生きる自信が湧いた一方で心身は疲弊した。閉店後の深夜、なじみの客に付き合う「アフター」で毎晩のように飲食し、客に話を合わせた。ある日、空が白む路上で吐き気に襲われ、激しく吐いた。

 大好きだった母の死を機に20代半ばで銀座を離れた。母は障害福祉の仕事をしており、面影をたどるようにして発達障害者や知的障害者らのグループホームの職員になった。2021年夏、かつての自分のように生きづらさを抱える女性の力になろうと、ぱっぷすの仕事を掛け持ちで始めた。

「発達障害があるから風俗で働く、というのは絶対に違う。女性が夜の街で働く理由はさまざま」。好美さんはそう強調する。ただ、発達の特性ゆえに「ふつう」に生きるのが難しい女性たちの中には、「生きるために性を売るしかない人がいる」。そして、その女性を消費する男性がいる――。それが日本の現実だ。

関連記事

トピックス

現地取材でわかった容疑者の素顔とは──(勤務先ホームページ/共同通信)
【伊万里市強盗殺人事件】同僚が証言するダム・ズイ・カン容疑者の素顔「無口でかなり大人しく、勤務態度はマジメ」「勤務外では釣りや家庭菜園の活動も」
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《巨人V9の真実》400勝投手・金田正一氏が語っていた「長嶋茂雄のすごいところ」 国鉄から移籍当初は「体の硬さ」に驚くも、トレーニングもケアも「やり始めたら半端じゃない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン
フランクリン・D・ルーズベルト元大統領(写真中央)
【佐藤優氏×片山杜秀氏・知の巨人対談「昭和100年史」】戦後の日米関係を形作った「占領軍による統治」と「安保闘争」を振り返る
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《追突事故から4ヶ月》広末涼子(45)撮影中だった「復帰主演映画」の共演者が困惑「降板か代役か、今も結論が出ていない…」
NEWSポストセブン
江夏豊氏(右)と工藤公康氏のサウスポー師弟対談(撮影/藤岡雅樹)
《サウスポー師弟対談》江夏豊氏×工藤公康氏「坊やと初めて会ったのはいつやった?」「『坊や』と呼ぶのは江夏さんだけですよ」…現役時代のキャンプでは工藤氏が“起床係”を担当
週刊ポスト
殺害された二コーリさん(Facebookより)
《湖の底から15歳少女の遺体発見》両腕両脚が切断、背中には麻薬・武装組織の頭文字“PCC”が刻まれ…身柄を確保された“意外な犯人”【ブラジル・サンパウロ州】
NEWSポストセブン
山本由伸の自宅で強盗未遂事件があったと報じられた(左は共同、右はbackgrid/アフロ)
「31億円豪邸の窓ガラスが破壊され…」山本由伸の自宅で強盗未遂事件、昨年11月には付近で「彼女とツーショット報道」も
NEWSポストセブン
佳子さまも被害にあった「ディープフェイク」問題(時事通信フォト)
《佳子さまも標的にされる“ディープフェイク動画”》各国では対策が強化されるなか、日本国内では直接取り締まる法律がない現状 宮内庁に問う「どう対応するのか」
週刊ポスト
『あんぱん』の「朝田三姉妹」を起用するCMが激増
今田美桜、河合優実、原菜乃華『あんぱん』朝田三姉妹が席巻中 CM界の優等生として活躍する朝ドラヒロインたち
女性セブン