PTSDについて大学で講義も行っている渡邊渚さん(本人提供)
回復期間の長短は被害の程度に比例するものではない
治療が終わっても、ふとした瞬間、被害時に似た天気や匂い・食べ物・音を感じたり、また自分と似たような被害のニュースを目にしたりするたびに、身体に刻まれたトラウマが再び体験しているかのように鮮明に蘇ってくる。
「いっそ殺してほしかった」
そう思うくらい、永遠に救われることのない地獄を、被害者は彷徨い続けるのだ。
中には、その地獄から早く抜け出す人もいるが、それは性暴力の度合いが軽かったからではないことも改めて示しておきたい。回復は被害者の生きたいという意志と周囲の献身的な支えによってできた賜物であり、その過程は人それぞれだ。回復期間の長短は被害の程度に比例するものではない。
たとえ身体的な傷が治ったとしても、心の傷が全て癒えることはないし、脳が記憶としてずっとトラウマを保持し続ける。もう元の自分はいない。生きれば生きるほどトラウマと向き合う時間が増えて、性被害は被害者にだけ、まるで終身刑のように一生苦しみを与え続けるのだ。
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後編記事では、渡邊さんが性加害者側の「都合のいい解釈」や、二次被害を生み続ける社会への怒りについて綴る。
(後編を読む)
【プロフィール】
渡辺渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社。現在はフリーで活動中。「NEWSポストセブン」エッセイ「ひたむきに咲く」を連載中。最新写真集『水平線』(集英社刊)が6月25日発売予定。
※週刊ポスト2025年6月20日号