当局の方針が圧力となって解散に追い込まれたのか(習近平氏/時事通信フォト)
香港を拠点に中国本土の労働環境を監視している非営利団体「中国労工通訊(CLB)」が2025年6月12日付で解散したことが明らかになった。創設者の韓東方氏は「財政難」を理由に挙げている。
香港政府当局は「外国からの資金提供や海外組織とのつながりのある組織」の摘発を強めており、こうした当局の方針が圧力となって解散に追い込まれたとの見方も出ている。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じた。
CLB創設者の韓氏は中国の労働者出身で、1989年の天安門事件当時の民主化運動指導者。主に労働者を組織してその権利向上を中心に中国の民主化実現を目指していた。
韓氏は事件で逮捕されて服役した後、香港に渡り、1994年にCLBを創設。中国で起きた数々の大規模な労働争議を綿密に追跡し、権利を侵害された労働者が補償を求めて闘うことを支援。CLBのホームページ上で、中国全土の労働者のストライキの地図を定期的に更新するなど、中国の労働問題に関する調査レポートを定期的に発表していた。
しかし、1997年の香港の中国返還後、中国政府による香港内の政治・民主化活動への監視が強化されるなか、中国政府が2020年に香港の民主化運動などを取り締まる香港国家安全維持法を施行すると、民主化活動家や民主派団体寄りの政治家、労働活動家らが組織していた多くの市民社会団体が閉鎖または撤退に追い込まれてきた。
韓氏は「CLB自体も中国の国家安全機関と香港の国家安全警察によって監視されている」と訴えていた。このため、韓氏は調査の焦点を中国企業ではなく、外国法が適用される外資系企業が関与する労働争議事件に移すよう方針を転換したが、解散を余儀なくされたとみられる。CLBの解散発表の数時間前には、香港国家安全当局が複数の個人宅や団体事務所を捜索していたとの情報もある。
ニューヨーク・タイムズは「香港では2020年の同法施行以降、少なくとも58の市民社会団体が解散を余儀なくされている」と指摘している。